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2024-25シーズン 入替戦 第2戦
Connectの証
◇NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25シーズン
◇浦安DR 27-21 S愛知(2025年5月31日@千葉・柏の葉総合運動場)
試合開始30分前。
千葉県・柏の葉総合運動場は、予報通りの激しい風雨に見舞われていた。
それでもピッチ上は熱気に包まれている。先発のSOオテレ・ブラックが、集中した面持ちでプレースキックを練習している。隅では、先発とリザーブのフロントロー(FW第一列)が3対3で組み合い、その様子を浅原拓真コーチ、メンバー外の濱野隼也、平井将太郎、坂和樹らが、真剣な眼差しで見つめている。
直前のチーム練習が始まった。
「D-Rocks!」
円陣から発せられた声がスタジアムに響き渡る。自然と会場から拍手と歓声が湧き起こる。この試合の重みを、全員が肌で感じ取っているのだ。絶対に負けられない試合―――いや、1点差以上で勝利しなければならない試合だ。
リーグワン最高峰のD1(ディビジョン1)に所属する浦安D-Rocks(浦安DR)は、入替戦の第一戦を1点差(42-43)で落とした。D2(ディビジョン)の王者・豊田自動織機シャトルズ愛知(S愛知)のパフォーマンスが勝った。
リーグワンでは過去3季、入替戦の第一戦で勝利したチームはすべて、昇格あるいは残留を果たしている。
つまり第一戦で敗れたチームが残留した例は、これまで一度もないのだ。
苦境に立たされた浦安DRがD1残留を果たすためには、引き分けでは足りない。最低でも1点差以上で勝ち、2試合合計の得失点で上回らなければ、以前いたD2に降格となる。
試合直前のチーム練習が終わった。チームのフィロソフィー「CONNECT(コネクト)」を体現するような、密度の高い最終調整だった。
ノンメンバーの佐藤大樹、ブロディ・マカスケル、小西泰聖、今季退団が決まっているトム・パーソンズ、そして現役引退を表明している大椙慎也らも――練習相手として参加した。降り注ぐ拍手の中、チームはロッカールームへと引き上げた。
この一週間、チームはもう一度自分たちに矢印を向け、自分たちのプランを信じることを意識してきた。
「この一週間は、もう一度自分たちにフォーカスして、それを80分間やり続けることを目指して準備してきました」(PR 金 廉)
「今週は、ベクトルを常に内側に向けることがテーマでした。ゲームプランを遂行することが勝因になると思っていました」(CTB サム・ケレビ)
これからの80分間、どんな事が起きても悲観せず、慌てず、自分たちのプランを信じ切る――。
第一戦は雨の中でボールを持ちすぎ、ミスをしてしまう場面があった。第二戦はキックが巧みなS愛知に対して、しっかりコンテストキック(競り合いを起こすキック)で対応する。その一方でパスの回数は少なくする――。
そうした判断には、雨の多いスコットランド出身の指揮官、グレイグ・レイドローHCの経験が生かされていた。
「以前はボールを持って無理に攻め続けるような場面もあったと思いますが、この試合(雨の試合)では相手のキックに対し、自分たちもコンテストキックを多く使っていこうというプランを持ち、それを遂行することができました」(グレイグ・レイドローHC)
満を持して、浦安DRはスタジアムの中心に躍り出た。前半は強烈な風下。雨風はなおも強い。
正午にホイッスルが鳴り、最初に苦境に立たされたのは、風下の浦安DRだった。
自陣で最初のペナルティ。ゴール前に下がる。直後、相手の司令塔フレディ・バーンズが意表を突くショートキック。ここはキックを察知したSH飯沼蓮が戻ってカバー。失点を防いだ。
第一戦ではS愛知の強力モールでトライを奪われた。しかし序盤は2回連続で相手のモールを止めきった。
「今日はモールもしっかり機能していました」(HO藤村琉士)
そして、第1戦でペナルティが多かったスクラムも修正した。
「先週(第1戦)は大事なスクラムでペナルティをもらってしまったので、今日はしっかり押してペナルティをもらおうと思っていました。セットアップのところ、密着、足の動きなどを、どんな時であってもやり続けようと、前の3人(PR金廉、HO藤村、PRセコナイア・ポレ)で話していました」(PR金廉)
エリア中央の相手投入ボール。ディティールを再確認して「コネクト」した3人を中心に、8人一体のプッシュで――ペナルティを誘った。相手ボールを奪うターンオーバー。大舞台で、チームのエナジーが高まる強烈なスクラムを見せつけた。
しかし、試練が訪れる。
ラインアウトの不調などでボールを失うと、S愛知が反撃。相手SOバーンズが見事なキックパスをエリア大外に通して先制トライを奪われる。(0-7)
さらに前半21分。
ラインアウトでリフトされたFL佐々木柚樹が見事なスティール――と思いきや、自軍側に落としたボールが、詰めていた相手の目の前にこぼれた。そのまま不運なトライ(ゴール成功)を奪われてスコアは0-14。2戦合計のビハインドは15点になった。
さらにパスミスを蹴り返されて、WTB石井魁がカバーしたものの相手ボールスクラム。被3連続トライのピンチを迎えた。
だが、踏み止まった。
倒れた相手キャリアーに絡みついたのはNO8ネイサン・ヒューズ。厳しい状況でタフネスを示し、劣勢を一変させた。ここからエリアを前進すると、浦安DRが魅せたのはドライビングモール。前へ前へと突き進んだ。
「あのモールは、プランのオプションとして持っていたものです。モールからハイパントを蹴る選択肢もありましたが、押せたのでそのままいった、という感じです」(FL佐々木)
密着したまま推進力を得て5メートル、10メートル、15メートル――。進むほどに歓声が増していく。そして待望のチーム最初のトライが生まれた。
トライを奪ったのは第一戦でも2トライを挙げたアタックの大黒柱。現役オーストラリア代表のサム・ケレビだ。
相手のラインアウトが乱れた。こぼれ球を浦安DRが捕球する。SOオテレ・ブラックがすぐにロングパスを通したのはCTBケレビ。ギアを最高速に上げるフットステップから抜けだし、そのままトライエリアを陥れた。
相手のミスを得点に変える一本で、ビハインドを7点(8)に縮めた。
浦安DR側は勢いを得た。直後に自陣からLOローレンス・エラスマスがピック&ゴー。歓声を巻き起こすビッグゲイン。さらに相手のペナルティで、前半32分、浦安DRは3点が得られるペナルティゴールを狙わずにスクラム勝負。2連続のペナルティを誘ってみせた。
「第一戦も(スクラムが)落ちはしましたが後半は押せるところまでいっていた印象で、『あの感覚を忘れずに』ということは伝えていました。今日のスクラムは、前半の後半で合わせられたと思っています」(浅原拓真アシスタントコーチ)
スクラムで2連続のペナルティを誘った。2度目のペナルティで冷静にショットを選択して3点追加(前半34分)。ビハインドを4点(2戦合計5点)とした。
そしてスコアをひっくり返した。
相手のゴールラインドロップアウト。このキックカウンターから大車輪のNO8ヒューズがダイナミックに突き抜けた。
前進後にSH飯沼主将がボールを託したのはCTBケレビ。そのまま抜け出して2連続トライ。大歓声。コンバージョン成功で、ついにこの日初めてリードを奪った。(17-14)
「ボールが回ってきてトライを決められたことは嬉しいことです。チームとしてコネクトし続けたことが理由だと思っています」(CTBケレビ)
14点ビハインドからの逆転劇。前半を17-14で折り返した。
「(第一戦で)シャトルズさんの気合い、プレーの質の高さを感じて、受けてはならないと言い合っていました。今日は我慢する時間帯でも『システムを信じよう』と言い合い、それをやり続けたつもりです。今日は崩れずに我慢できました」(PR金廉)
だが油断は禁物だ。今季は後半に追い上げられる試合が多かった。しかしだからこそ、チームは互いの目を見て、顔を上げて、コネクトを続けた。
「前半は僕たちが嫌なことをやり続けられてしまいましたが、緩むところで緩みませんでした。それが勝ち切った結果かなと思います」(PR竹内柊平)
ハーフタイムの開始前には「機材の確認」でレフリーを待つ状態になった。すると、ここで「D-Rocks!」コールが会場から自然発生。スタジアムMCもそれに呼応する形で「D-Rocks!」と呼びかけた。
ホストの声援を受けながら風上に立った後半は、エリア合戦で優位に立った。
後半9分にはペナルティで自陣方向に下がったが、ゴール前のラインアウトで、この試合限りで引退するLOジェームス・ムーアが相手ボールをカット。ジャンパーとなった元日本代表の働きで、ピンチを脱した。
すると3点リードのまま迎えた後半16分だ。
後半最初のスクラムペナルティで右奥へ前進。ここでCTBケレビをパサーとして左展開。雨の中でパスを多用する積極策で、ここまで攻守に奮闘していたFB安田卓平が突進。
今季通算50キャップを達成した万能ランナーが、入替戦で殊勲の3トライ目。リードを10点(24-14)に広げた。
しかし、S愛知の武器が炸裂する。
後半26分に浦安DRがスクラム・ペナルティを犯す。ここから浦安DR陣内に入ったS愛知がモールでチーム3本目。SOフレディ・バーンズが逆風の中でゴール成功。ふたたび4点差(24-21)に迫られた。
浦安DRは後半28分のショット成功でリードを6点(27-21)に広げたが、まだ分からない。入替戦のリーグ規約によって、勝利したとしても「勝点」「得失点差」で同数になると「トライ差」で勝敗が決まる。
ここでS愛知に4本目のトライを決められて試合が終わると、2試合合計の得失点差が0となり同点に。その時点でトライ差により、相手のD1昇格が決まるのだ。
試合は最終局面。アーリーエントリーのLO佐々木のラインアウト・スティールから敵陣に入った浦安DRは、ドロップアウトを確保してボールキープ。怒号のような歓声がスタジアムに轟き続ける。あと30秒。あと20秒。あと10秒――。
「D-Rocks」コールの中、しかし最後は圧力を受けてノックフォワード。
だが、すでに80分を知らせるホーンが鳴っていた。
ノーサイドのホイッスルが、響いた。
ガッツポーズをする者、膝から落ちる者、安堵の表情を浮かべる者、静かな笑みを浮かべる者――。十人十色の表情が2週間の激戦を物語っていた。
D1残留を決めたスコアは27-21。
薄氷を踏むような、残留だった。
「今日は仲間たちからファイトする精神が感じられました。ただ来年はこのような状況にならないように頑張らないといけません」(CTBケレビ)
ただ浦安DRがジンクスを破る快挙を成し遂げたことは事実だ。入替戦の初戦を落としたチームは残留できない――そんなジンクスをハードワークで破った。チームフィロソフィー「Connect」を体現し、緩まずに全員で闘い続け、D1の未来を、次シーズンへ繋いだ。
ヘッドコーチ1年目のシーズンを終えたレイドローHC。試合直後の感じたのは「安堵」だったと語った。
「今日は難しい天候で、自分の祖国のスコットランドでは『相手より得点が上回ってさえいればいい』と言われるような試合でした。その中でしっかりと結果を出してくれた選手たち、それを支えてくれた現場スタッフ、そして裏方としていつも働いてくれているスタッフのみなさんに本当に感謝しています」
「選手たちのことは本当に誇りに思っています。こうして残留し、来シーズンもディビジョン1で戦える権利を勝ち取れたので、そこへ向けてこれからも改善していきたいです。プレシーズンにしっかりとハードワークをして、またディビジョン1で良い姿を見せたいと思います」(レイドローHC)
もちろん、浦安D-Rocksの目指す場所は「残留」ではない。その先にある、さらなる高みを見据えた新たな戦いが、まもなく始まる。
けれど今は、繋がり合い、讃え合おう。次なる旅路に備えて。再び『Connect』するために。