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2024-25シーズン入替戦 第1戦
「もう一度、挑戦者として」
◇NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25シーズン
◇浦安DR 42-43 S愛知(2025年5月24日@愛知・ウェーブスタジアム刈谷)
心配された雨は降っていない。しかし西から大きな雨雲が迫っており、試合の途中で降り出す見込みだ。
運命の入替戦。
ホスト&ビジターの2連戦で、「残留」「降格」が決まる今季の最終バトルだ。
ここ愛知のウェーブスタジアム刈谷にビジターとして乗り込んだのは、ディビジョン1(D1)の座を死守しなければならない浦安D-Rocks(浦安DR)。
ホストチームは、初のD1昇格を期するディビジョン2(D2)王者の豊田自動織機シャトルズ愛知(S愛知)だ。
今季3勝目を奪ったリーグ戦の最終節(第18節)の記者会見だった。SH飯沼蓮主将が落ち着いた声色で言っていた。
「僕たちがそうだったように、ディビジョン2のチームは入替戦に照準を合わせてくるので、油断せずに僕たちもチャレンジャーという気持ちで戦うことが大事です」(SH飯沼主将)
心理的には「守らなければならない」チームより、「失うものがない」チャレンジャーの方が有利だ。それは重々、承知している。そしてS愛知はこれまで何度も接戦を繰り広げてきた強敵だ。それも十分に分かっている。
だから曇天の下、黄色のオルタネイトジャージーに身を包んだ浦安DRは、挑戦者として走り出した。そして会心のスタートダッシュを決めた。
正午にS愛知のキックオフボールが舞った。それが、序盤の圧倒劇の号砲になった。
ファーストアタックでいきなり突破を創出。SOオテレ・ブラックの仕掛けからオフロードパスが決まった。敵陣に入り、右隅で2試合ぶりスタメンのWTB石井魁がショートキック。相手を翻弄するアタックをLOローレンス・エラスマスが締めくくり、開始1分でのノーホイッスルトライが決まった。
「(序盤は)当たり前のことをしっかりできていました」(グレイグ・レイドローHC)
7点を先取した浦安DRは、直後、相手のアタックを一次攻撃目でターンオーバー。FLブロディ・マカスケルのタックルが効き、NO8ネイサン・ヒューズがスティール。ここからショートサイドの急襲を続けてCTBサム・ケレビがトライエリアへ。チーム2本目は堅守速攻で切り取った。
さらに浦安DRの猛攻は続く。
14点リードで迎えた前半6分。ラックサイドの穴を見つけたSH飯沼がラインブレイク。CTBシェーン・ゲイツが右隅へのキックパス。これをWTB石井が捕球して連続トライ。3本目は足技でスペースを攻略した。
さらに前半14分にはモールを起点にNO8ヒューズが4本目。フォワードのパワープレーで4本目を生み、SOオテレ・ブラックは難しいコンバージョンを全て成功。14分間で浦安DRのリードは28点(28-0)となった。
だが前半15分のハイタックルを皮切りに、反則が増えてしまう。
自陣に下がってラックでペナルティ。このアドバンテージを利用してショートキックを押さえたS愛知に一本目のトライを奪われる。
さらにファースト・スクラムで浦安DRがペナルティ。エリア後退後のモールで2本目を奪われ、S愛知が7点追加。リードは16点(28-12)に縮まった。反則の連続から、2連続トライを浴びた。
「スキルエラーやペナルティが続いてしまったので、『落ち着こう』と口では言っていたものの、ボールが手に付かない時間が多かったです」(HO藤村琉士ゲームキャプテン)
反則に続き、キックのダイレクト、自陣でのノックフォワードなどのエラーが続いた。自陣を脱出できない時間帯が続き、優勢のムードは雲散霧消してしまった。
そして前半最後は、自陣でのノックフォワードからのゴール前スクラム。S愛知が展開攻撃から1トライ(ゴール)を奪い、9点リード(28-19)でジェッドコースターのような前半が終わった。
後半に今季初出場を飾ったリザーブの坂和樹。フィールドプレーにも優れた高次元のプロップになった元ナンバーエイトは、"受けて立つ側"の難しさを痛感していた。
「ディビジョン2にいた2シーズンはチャレンジャーとして『上がってやる』という気持ちでしたが、今シーズンは初めて『迎え撃つ側』という逆の立場になりました。試合の最初は違いをみせられた反面、隙も生まれてしまったように感じました」(坂)
この試合で途中出場からチームデビューを飾った濱野隼也。セットプレーとスティールで魅せるフッカーは、4連続トライ後の展開について問われると、こう話した。
「勢いを維持し続けることができませんでした。シャトルズさんも簡単な相手ではないし、前半出ていたメンバーにしか分からないところもありますが――連続トライを取ってすこし浮ついてしまった時間があったのかなと」(HO濱野)
後半開始の直前、予想されていた雨が降ってきた。
浦安DRのリードは9点。今季は雨のコンディションでも積極的なラグビーを披露してきた浦安DRだが、雨でボールが手につかずノックフォワード。
すると直後のスクラムで、S愛知が大外へキックパス。しかしここはWTB石井が捕球した相手に好タックルを放つ。
さらにペナルティで後退したが、モールも見事に防ぎ切った。しかし直後の相手アタックで狭いサイドでトライ(ゴール)を切り取られた(28-26)。
この一連のプレーにおいて、WTB石井が守備時の頭部同士のコンタクトによりイエローカード。後半18分頃まで14人で戦うことに。さらに相手9番へのディフェンスがオフサイドの判定。ここでS愛知がショット(3点)を決め、28-29とこの日初めてリードを許した。
だが14人の浦安DRが、トライを返す。
後半16分。立て直したスクラムでボール確保。CTBゲイツがスワーブで相手をかわして雨の中を疾走。
外で待っていたのは後半の切り札、イズラエル・フォラウ。194㎝103㎏がワンハンドで押さえ、逆転の一本を沈めた。
キック全成功のSOブラックが右足を振り抜き、14人で逆転(35-29)。
そして浦安DRは6点差のために懸命にハードワークした。WTBリサラシオシファは自陣ピンチでスティール(後半22分)。途中出場のヘルウヴェはパイルアップを誘う腕力をみせたかと思えば、PR石田楽人とCTBゲイツのダブルタックル後にスティール(後半25分)。
キックチャージから招いた自陣ゴール前の窮地。ここはHO藤村琉士ゲームキャプテンのタックルで相手が落球。しのぎ切ってみせた。
しかし相手のスティールから迎えた自陣ゴール前ラインアウト。ボールが乱れた混戦模様から、相手が一瞬の隙を突いてトライ。再び1点ビハインド(35-36)を背負った。
だが浦安DRも諦めない。
後半32分。途中出場のNO8トゥクフカトネがピック&ゴーで突破。連続オフロードパスで前進。途中出場の橋本法史が急きょボールを守り、オテレ・ブラックが左へ配球。
タテへの推進力から生まれた優位を取り切ったのは、今日も大車輪のケレビ。S愛知所属で実弟のHOジョネ・ケレビも見守るなか、ゴール下へチーム6本目を決めた。
再びの6点リード(42-36)。
入替戦で待望のチームデビューとなったHO濱野隼也、今季初出場のPR坂和樹が揃って投入。最初のプレーは仕事場のスクラムだった。
「ファーストキャップを取れたことは嬉しいです。試合時間は残りも少なかったですし、相手が勢いに乗っている状況だったので、得意なセットプレーやブレイクダウンでチームに勢いをつけたいなと思って入りました」(HO濱野)
そして、そのスクラムで反則(フリーキック)を引き出した。
「スクラムで流れを変えたいなと思っていました。フリーキックは取れたので、最初のスクラムとしては良かったと思います」
だがラインブレイクは許さないものの、後半37分、再びラックのペナルティで自陣方向へ後退。逆転を狙う相手が最後のアタック開始。アドバンテージ中のショートキックが、Hポールのクロスバーに跳ね返った。まさかの展開の中、S愛知の猛攻が続く。
80分のホーンが鳴った。
自陣ゴール前のディフェンス。フォワードのモール勝負は見事に堰き止め、レフェリーの「ユーズイット」コールを引き出した。しかしラック脇のFW戦でペナルティ(ラインオフサイド)。ここで右隅に転がしたボールをおさえ、S愛知が会場を沸かせる6トライ目。
最後は相手SOフレディ・バーンズのサヨナラコンバージョンが決まった。
雨の中で好プレーを続けたS愛知が逆転勝ち。スコアは42-43。浦安DRは大事な一戦目を一点差で落とした。
「この結果は、自分たちのパフォーマンスの悪さに付随するものです」試合後のレイドローHCは厳しい表情だった。「(序盤の4連続トライは)当たり前のことをしっかりできていたと思います。そのあとは、ラグビーの仕方を忘れてしまったようでした」
浦安DRの2024-25シーズンは、ラスト1週間だ。
「(最後の試合へ向けて)新しくやることはありません。全然バラバラになっていないですし、チーム一丸となってやっていきます」(PR坂)
運命は、まだ何も決まっていない。試合時間は、あと80分ある。
最終決戦は5月31日(土)。千葉・柏の葉公園総合競技場にホストチームとして登場し、先勝したS愛知を迎え撃つ。