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2024-25シーズン トレーニングマッチ
「温かい拍手に包まれて」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2024-25シーズン トレーニングマッチ
◇浦安DR 38-50 S東京ベイ(2025年5月11日@千葉・浦安Dパーク)
今季最後のトレーニングマッチは天候に恵まれた。
薄曇りだが陽射しは明るく、浦安Dパークには心地よい春風が吹いている。絶好のラグビー日和だ。
出場するメンバーには、浦安D-Rocks(浦安DR)で今季退団が決まった選手も少なくない。
先発では、PR坂和樹、HOキアヌ・ケレルサイムス、LOヴィンピー・ファンデルヴァルト、FL大椙慎也、FBクリス・コスグレイヴ。リザーブではPR西川和眞、FLジェームス・ムーア、FL中島進護の計8名が入った。
そのほか今季退団する選手では、ピッチ外に、先発予定だったものの急きょメンバー外となったHO濱野隼也の姿も。また日米ハーフのFLマッケンジー アレキサンダー、社業に専念するCTB本郷泰司、先日の最終節で奮闘したLOトム・パーソンズ、NO8ネイサン・ヒューズも試合を見守った。
今季退団する選手がいるのは、対戦するクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)も同じだ。
S東京ベイでは、この日の先発に退団するPR松波昭哉選手、LO松井丈典選手、NO8土谷深浩選手の3名が登場。観客席は両軍のサポーターが詰めかけ、温かな声援を送った。
それぞれの思いを抱きながら、両軍メンバーが選手・スタッフの花道を通ってピッチへ。
そのうちの一人、今季退団する先発プロップの坂は、同期とスクラムを組めることが嬉しかった。
「柊平(PR竹内)と出場できるチャンスをもらえたので、それに向けて1週間準備しました。気合いを入れてハマ(HO濱野)と3人で坊主にしたんですが、ハマが急きょ出場できなくなり残念でした。でも柊平とは一緒に試合をできてよかったです」(PR坂)
そして日本代表として2019年W杯に出場したFLムーアも、今季限りでジャージーを脱ぐ。
身体のコンディションを考慮して「昨年の冬」にプレイヤーの引退を決断。今後は母国オーストラリアに帰り「妻のサポートをしながら建築の勉強したい」と展望を語った。
「ワールドカップでは、日本を代表してチームや家族のために戦うこともできました。サンウルブズ(SR日本チーム)での1年目や、2019年のワールドカップで準々決勝に行けたこと、さまざまな国の選手と仲良くなったことなどは、素晴らしい思い出です。次の人生のチャプターに進むことに満足しています」(FLムーア)
キックオフのホイッスルは正午。ちょうど至近にある千葉県立浦安南高のチャイムも鳴った。日和はのどかだが、試合は熱く激しかった。
PR竹内が得意のピック&ゴーで力強く前進する。すかさずフォローに入ったPR坂とFL大椙が、二人がかりで相手を排除。続くLOファンデルヴァルトのキャリーも激しい。アタックの勢いが加速していく。
新世代も躍動する。
今春法政大学を卒業したアーリーエントリーのSO金侑悟。エリア右奥へピンポイントのロングキック。若き司令塔が的確にエリアを取っていく。
ここから敵陣右に入ると、浦安DRが先制トライを決める。
急きょスタメン出場となったSH小西泰聖、SO金の若きハーフ団でテンポを刻む。センターに入った森駿太が、得意のランで数的優位を仕留めてトライエリアへ。チームが連動した連続攻撃で、取り切った。(7-0)
圧巻のパフォーマンスだったのはFL武内慎だ。
まずディフェンスでは自陣ピンチでボールスティール。トライ後の失点を防いだ。さらに常にエナジー満点のLO小島佑太にもスティールが飛び出す。
チーム全体の士気が高まると、前半17分だ。
SH小西が背後のスペースを察知してロングキック。チェイスしたWTBタナ・トゥハカライナが捕球。最後はフォローのCTB何松健太郎に繋げ、ターンオーバーからの逆襲で2連続トライを決めた。(14-0)
相手も反撃を試みるが、FL武内が2度目のスティール。さらにCTB何松のビッグタックルなどで辛抱強く堅陣を守る。
さらにPR坂、HOケレルサイムス、PR竹内を配したスクラムでペナルティも誘発。「感触としては(出場時間内は)終始良かった」(PR坂)というスクラムバトルを展開した。浦安DRは最初のウォーターブレイク時点で、14-0とリード。高精度の攻守をみせる。
前半31分に相手15番にミスマッチから突破を許し1トライを失ったものの、その2分後(前半33分)だった。
ツイヘンドリックが、パワーとスキルを組み合わせたランで突破。4月にはチャリティ・ランイベント「RUN 4 AUTISM」も開催した37歳が、突破口を開く。するとフォローに走っていたのは運動豊富なFL武内。充実のチーム3本目を奪った。(21-5)
が、ここからS東京ベイが2連続トライ。
前半36分にはラインブレイクを許し、WTB大畑亮太が快足で追いつくが、モメンタムを活かされて連続失点。しかし2点リード(21-19)で前半を終えた。
後半開始からはラストシーズンとなるムーアが登場。チームのエナジーは引き続き高かった。
FL武内が開始直後に3度目のボールスティールを見せれば、後半5分にはPR西川和眞が相手を押し返す好ディフェンス。途中出場のHOサミソニ・アサエリも音の鳴るタックルを繰り出す。
だが後半はS東京ベイが優れたパフォーマンスを発揮。
ペナルティなどから劣勢となった浦安DRは、後半開始から被3連続トライ(後半3、7、12分)。突き放されてしまい、スコアは21-38まで広がった。落ちていくムードに抗おうと、被トライ後にFL武内が「顔上げよう!」と仲間を鼓舞する。
ここで、劣勢ムードを一気に変えるプレーが飛び出す。
後半17分のスクラムだ。
フロントローはPR西川和眞、HOサミソニ・アサエリ、PR平井将太郎。FLムーアやルーキーFL小嶋大士もバックファイブに入った一本で、相手ゴール前でペナルティ。会場に歓声が響く。
このスクラム・ペナルティから右コーナーへ前進。得点機がやってきた。
ラインアウトを無事に確保。そしてモールでプッシュ。強力フォワードの伝統を持つ一昨季の王者、S東京ベイの実力者たちを相手にじりじりと押し込んで――グラウンディング成功。再び気合いが漲る、大きな一本を決めた。(26-38)
直後、風上からのロングキックが転がり続けてデッドボールラインを超える不運もあり、S東京ベイがフォワード戦から4本目。しかし途中出場のPR玉永 仁一郎らが低く鋭いタックルで応戦した。
スコアは26-45となったものの、ここから浦安DRは2連続トライ。
まずは後半26分。数的優位をつくる鮮やかな波状攻撃をWTB松本純弥が右隅でフィニッシュ。SO金のコンバージョン成功で、ふたたび12点差(33-45)。
さらに風上の浦安DRは、全員参加の"チームトライ"を炸裂させる。
この日何度も果敢なランをみせていたWTB大畑が相手ディフェンスを翻弄。逆サイドまで走ると、パスを送った逆サイドのウイング松本が突進。ここから左展開。FLムーアが後列ラインへパス。
そしてWTBトゥハカライナが弾性溢れるしなやかな突破。左隅で舞っていたHOサミソニ・アサエリがボールを受けて、余裕をもってトライラインへ入った。
ラスト6分で7点差(38-45)。
この状況でピッチに入ったのが、今季限りで現役を引退するFL中島進護だ。観客席からも、仲間からも「シンゴー!」と声援が飛んだ。クラブキャプテンなども務めた中島の両脚には、テーピングなどが大量に巻かれている。
「(調整中だが)何としてもこの試合に出たいとお願いして、少しだけという約束で出させてもらいました」
社業に専念する中島は、シーズン前に今季限りでの引退を決意していた。
「手術回数ランキングがあれば1位かなと思ってますが、手術は14回しましたし、プレーには満足していますが、身体はガタが来ています。もちろん入替戦があるのでまだ終わったわけではないですが、ラグビー、やり切りました。大満足です」
中島は頼み込んで出場したピッチで、いつも通り頼もしいハードワークを続けた。さらに中島と共に投入された金嶺志が、ブレイクダウン付近で猛タックルを浴びせる。
最後はS東京ベイのチャンス。フル出場したSH小西が、モールのサインプレーで突進してきたフォワードを――止めた。しかし直後のFW戦で、数十センチの攻防を押し切られて失点を喫した。
浦安DRはラストプレーで敵陣でモールを組み、押し込んだが、スコアは叶わずノーサイド。思いのこもった白熱の攻防は、38-50で幕を閉じた。
試合後には両軍選手がバック前に整列。今季退団する選手の退団セレモニーが行われた。浦安DRから挨拶にたったのは中島進護だ。
中島が触れたのは、両チームに残された試合だった。
「スピアーズも、D-Rocksも、それぞれプレーオフと入替戦があります。引き続き熱い声援よろしくお願いいたします」(FL中島)
試合後、その中島へ残されたメンバーへのメッセージを求めた。
「浦安D-Rocksはこれから日本一を目指すチームなので、選手はプライドを持って戦って頑張ってほしいなと思います」(FL中島)
浦安DRとS東京ベイ、それぞれの選手がそれぞれの思いを胸に戦い抜いたトレーニングマッチ。温かな拍手に包まれたこの一戦は、ファン、スタッフ、選手の心にいつまでも残り続けるに違いない。