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2024-25シーズン 第18
「聖地で魅せた強力スクラム」

NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25シーズン 第18
◇浦安DR 3421 相模原DB202559日@東京・秩父宮ラグビー場)

試合前になって、雨脚が強くなってきた。
スタンドにはレインウェア姿のファンが並び、ピッチでは選手たちの顔を雨が伝っている。浦安D-Rocks(浦安DR)のリーグ戦最終節(第18節)は、雨中の一戦になった。

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今季3度目となる金曜ナイター。浦安DRが迎え撃つ相手は、三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)だ。

相模原DBは今季開幕戦で31-19で敗れている強敵。浦安DRがディビジョン1D1)残留をかけた入替戦出場が決まっている一方で、入替戦などがない9位の相模原DBは、この試合が今季ラストマッチとなる。有終の美を飾ろうという相模原DBの士気は高かった。

浦安DRもホストゲームで今季3勝目を奪おうと意気軒昂だ。フレッシュなメンバーも多く、今春大学を卒業したばかりのアーリーエントリー選手が3名(PR梅田海星、LO佐々木柚樹、WTB松本壮馬)、スタメンに名を連ねた。

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その一人、梅田海星はこの秩父宮に特別な思いを抱いていた。

 この場所(秩父宮)で、負けるわけにはいかない。

5カ月前、梅田は秩父宮で大学日本一を味わった。大学選手権のファイナルで、帝京大学の先発プロップに抜擢、強みのスクラムで大学4連覇に大きく貢献した。大学1年から4年間チャンピオンチームにいた梅田にとって、秩父宮はチームで「最強」の歴史を刻んできた大切な舞台だ。

「選手権の時もそうでしたが、スタメンと発表されたときはすごく緊張していました。でもフィールドに立ってみると、もう自分の土俵という感覚でした。秩父宮は大学で何度も試合をしていた場所ですし、ここで負けるわけにはいかない、というマインドでやりました」(PR梅田)

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1835分。雨粒の中にキックオフボールが舞った。
チームを勢いづかせたのは、フレッシュな初先発組だった。

試合開始早々、CTBシェーン・ゲイツが得意のタックル。相手のパスミスを誘った。ボールが濡れた芝に落ちた。と、これを巧みに拾ったのが――リサラシオシファ。
今季2試合目で初スタメンの31歳が、こぼれ球を拾ってカウンターラン。花園大学時代から知られたスピード&パワーで走りきり、幸先良く先制トライを奪ってみせた。

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今週『RockStars』(ノンゲームメンバー)の橋本法史が注目選手に挙げたリサラシオシファが、さらなる活躍をみせる。しぶきが飛ぶような強烈ヒットで会場を沸かせると、1トライを返されて同点(7-7)で迎えた前半11分だ。

リサラシオシファが再びの強烈キャリーで、相手9番を弾く。そのまますかさず「オーツ」ことFBオテレ・ブラックへのオフロードパスを通す。最後は「オーツ」が雨の中で華麗な逆手のワンハンドパス。

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受け取ったCTBゲイツがそのままトライエリアへ滑り込んだ。リサラシオシファが突破口を開き、電光石火の2トライ目が生まれた。

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バックスの活躍にフォワードも奮起する。

ファーストスクラムは16分だった。ルーキー1名(HO松下潤一郎)、アーリーエントリー2名(PR梅田、LO佐々木)のいる若いフォワードが、経験豊富な相手フォワードを――押し込んだ。レフリーの手が浦安DR側に挙がる。ペナルティだ。

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するとNO8ネイサン・ヒューズが突進。パスを受けたSH飯沼蓮主将が独走。ここからさらにゴール前で反則を誘うと、一瞬の隙を見逃さなかったのがSO田村熙だ。
タップから左大外へキックパス。WTBリサラシオシファが濡れたボールを捕球。パスを受けた「オーツ」が低い姿勢でねじ込んで――3本目。強力スクラムと高度なスキル、積極性で21-14と勝ち越した。

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「今日はセットピースとキックの使い方が勝因だったと思います」(SH飯沼主将)

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主将が勝因の一つにあげたセットピース、スクラムがこの日、試合の要所で効いていた。スクラムはチーム3本目の後、さらに連続でペナルティを誘った。
PR梅田のこの日のトイメン(背番号3)はプロリーグで経験を積んできた南アフリカ出身の大型プロップ。体格でもキャリアでも上回る相手に対し、梅田はすでに臆するところがなかった。

「初めて出場した試合(埼玉パナソニックワイルドナイツ戦)のトイメンは、(日本代表の)ヴァルアサエリ愛選手で、静岡ブルーレヴズ戦は(190㎝、146㎏の)ショーン・ヴェーテー選手でした。これまでに学んだ事を今日、まとめて出せたかなと思います」(PR梅田)

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リーグワンでの出場機会が梅田を成長させていた。同期から受けた刺激もあった。

「同期の壮馬(WTB松本)が、血だらけでトライをしていたりするのを見ていると、やっぱり燃えます(笑)。『自分もやってやろう』という気持ちでいました」(PR梅田)

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そのWTB松本壮馬は前半23分に負傷交替。代わりに経験豊富な安田卓平が投入された。

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その直後の前半24分だ。
スクラムでのペナルティから連続攻撃。SO田村がショートパントをみずから捕球。強烈なタックルを受ける。だがボールは継続。ここで空いた左隅へCTBゲイツがキックパス。
足元に飛んできた楕円球を絶妙なトラップで前方に転がしたのが、シーズン中にリコーブラックラムズ東京から期限付きで移籍してきたフィジー出身のNO8ヒューズ。

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サッカーの母国、イングランドで代表歴のある33歳が巧みな足技でボールを操り、バックスタンドを沸かせる4本目。爽やかな笑顔を浮かべ、華麗な一本を仲間と喜んだ。

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トライ後のキッカーは、直前に猛タックルを受けていたSO田村。表情はかすかに歪み、息は弾んでいるようだ。しかし難しいコンバージョンキックを――見事に成功。その後1トライを返されたが、2821とリードを保ったまま試合を折り返した。

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雨中の試合ながら、パスとキックでボールを大きく動かし、前半4トライを奪った。浦安DRの積極的なラグビーが光った。

「シーズンの課題は『ポジティブに積極的に攻めるところ』と『キックを使っていくところ』でした。勢いがあるかないかで判断していく部分が課題でしたが、そこにはすごく成長が見られました。この先も積極的なラグビーを見せていきたいと思います」(グレイグ・レイドローHC

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雨の中で積極性をみせた浦安DRだが、反面、雨の日は負傷が多くなることもある。
この日はWTB松本壮馬に続き、落球を誘うタックルを繰り返していたFL繁松哲太も途中交替。後半開始からヘルウヴェがスクランブル出場となった。
さらに後半9分には、スリップしたSO田村が危険な角度で相手と衝突するアクシデント。こちらも急きょイズラエル・フォラウが投入され、10番の位置にはオテレ・ブラックが入った。

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後半にようやくスコアが動いたのは58分だ。

4試合ぶりの出場となったHO藤村琉士、PR石田楽人、PR金廉というリザーブのフロントローを前列とした相手投入スクラム。プレッシャーをかけて相手が反則。スクラムで局面を反転させてみせた。

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そしてペナルティゴール(PG)を選択。
キック好調の「オーツ」が冷静に決め、リードを10点(31-21)に広げた。

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試合時間は残り20分。

雨によるノックフォワードのミスもあり、なかなか敵陣でスコアできない時間帯が続く。SH飯沼主将は「トライゾーン前で取り切れないシーンが印象的であまり満足はできていない」と試合後に語った。
それでも強力スクラムを武器に敵陣に居座り、アタックを続ける。

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そして相手のペナルティから後半28分にPG3点追加。リードを13点(3421)に拡大させた。
スコアを奪う一方で、後半は相手を無得点に押さえた。

自陣のターンオーバーからFL佐々木が大きく蹴り返すシーンもあった。ここで今季限りでの退団が決まっているFLトム・パーソンズがトップスピードでチェイス。終盤まで全員がハードワークをみせていく。

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残り時間は2分。

リザーブのSH白栄拓也は終盤にウイングで出場したが、短い出場時間で見せ場をつくった。フィジー出身の相手ウイングに対してロータックルを決め、ゲインを許さない。本職ではないウイングで武器のディフェンスを披露した。
最後は一発を狙ったタックルが反則になるなど、危険なプレーでピンチが続いたものの、最後はしぶとく守り切った。

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リーグ最終戦で次戦につながる待望の3勝目。プレシーズンから我慢強く、修正に修正を重ね、成長を続けてきた。そして開幕戦では12点差で敗れた相手に対し、層の厚い強力スクラムを中心に約5カ月間の成長をみせ、13点差(34-21)で競り勝った。かつての黒星を白星で上書きした。

思い出深い秩父宮でリーグ初先発を飾ったPR梅田は、「今日はスクラムでペナルティをとってチームを勢いづけられたかなと思います。最初はイーブンでしたが試行錯誤して自分たちの組み方にもっていけました」と満足の表情。

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レイドローHCも言葉に喜びが滲んでいた。

「厳しい戦いを強いられるシーズンでしたが、今日は悪天候の中で積極的なラグビーを見せられたと思います。レギュラーシーズンのラストの試合を良い結果で終えられて満足です」
「この先も入替戦という素晴らしいチャレンジが待っていると思うので、それを楽しみに向かっていきたいと思います」

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入替戦という素晴らしい「チャレンジ」――。その言葉にチームとしての心構えが集約されていた。チーム創設3年目、若き浦安DRは常にチャレンジャーだ。飯沼主将が淀みなく言った。

「僕たちがそうだったように、ディビジョン2のチームは入替戦に照準を合わせて戦ってくるので、僕たちもチャレンジャーという気持ちで戦います。普通にやれば勝てるというメンタルでいると、足元をすくわれ、焦って、勢いでもっていかれてしまうと思うので、しっかりと相手をリスペクトして、自分たちもチャレンジャーという気持ちで向かっていきます」
「僕たちは2年間、(入替戦で)悔しい思いも嬉しい思いもしているので、その経験者たちが(経験を)伝えながら、2週間あるので気持ちにスキを作らないようにしっかりとやっていきたいと思います」

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D1残留をかけた入替戦の初戦は524日。土曜日の正午にキックオフされるビジターゲーム。愛知・ウェーブスタジアム刈谷で、ディビジョン2を初制覇した豊田自動織機シャトルズ愛知にチャレンジする。

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