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REPORTレポート
2024-25シーズン第17節
「執念の52得点」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2024-25シーズン第17節
◇浦安DR 52-62 静岡BR(2025年5月3日@静岡・ヤマハスタジアム)
"アウェー"とはまさにこの事か。最大傾斜35度のバックスタンドは、今日の青空を映し取ったかのように「レヴズブルー」(静岡ブルーレヴズのチームカラー)に染まっている
ただ一角には、遠く静岡の地まで駆けつけた『D-Rockers』の姿も。『D-Rockers』が身にまとう鮮やかな黄色のホッケーシャツが、ひときわ目を引く。
だがスタジアムの空気感は"青の壁"。そんな静岡・ヤマハスタジアムにビジターチームとして登場した浦安D-Rocks(浦安DR)は、黄色のオルタネイトジャージ姿。先発メンバーは、結束を高めるように、固く円陣を組んだ。
その円陣のかたわらで、第7節以来のスタメンとなったWTB石井魁がいつもの試合前のルーティンを行っていた。
前回りをする。ピッチに静かに正座をする。ボルテージが最高潮に達したスタジアムの底にいながら、石井だけがまるで別の世界にいるかのようだ。
「(ルーティンを始めたのは)いつからなんだろ、社会人になってからですかね。自分と向き合う時間を作っているという感じで、習慣になっています。やることの確認もしています」(WTB石井)
どんな会場であっても、石井の心持ちは静かだ。徹底した"アウェー"に対しても対抗心はない。
「アウェーではありますけど、ラグビーを楽しみに観てきてくださる人たちなので。どちらかといえば『仲間』と思ってやっています。それに、人がたくさんいるのは楽しいことですし」(WTB石井)
午後2時のキックオフ前から相手の声援が響き渡る試合で、浦安DRは快調に滑り出した。
この日は、ゲームキャプテンを務めたSO田村熙のハイパント攻撃が効果的。序盤には相手のミスを誘い、WTB石井が足にかけて敵陣ゴール前へ。
反則を誘い、ペナルティゴールで3点を先取する好スタートを切った。
「今日はキックを上手く使うことができて、そこに関しては相手の強みであるフォワードを自分たちのエリアに入れないようにできたと思います」(WTB石井)
また、この日は一週間前(4月26日)のトレーニングマッチに出場した『RockStars』(ノンメンバー組の愛称)から6人がメンバー入り。その6人とは、FL佐々木柚樹、NO8ブロディ・マカスケル、PR梅田海星、LO/FL佐藤大樹、SH白栄拓也、WTBリサラシオシファだ。
グレイグ・レイドローHCは、一週間前の東芝ブレイブルーパス東京とのトレーニングマッチで『RockStars』のプレーに強い印象を受けた。それが起用の理由であると明かした。
「(公式戦の)翌日に東芝ブレイブルーパス東京と練習試合をして、そこで素晴らしいパフォーマンスをした『RockStars』のメンバーが何人もおり、結果として勝利(40-38)しました」
「メンバーに選ばれる実力を証明した選手は、ポジションを勝ち取っていける環境を設定したいです。今日のパフォーマンスでも『RockStars』のメンバーは実力を証明してくれたと思います」
その一人、80分出場したアーリーエントリーのFL佐々木は自身初の初先発。序盤にはターンオーバーからWTB松本壮馬にパスを送り、同期2人でチャンスを演出した。
「いま『RockStars』が良い意味で競争しあって、良いチーム状況だなと思います」(FL佐々木)
試合は、互いに攻撃力を発揮する乱打戦になった。
すでに初のプレーオフ進出を決めている静岡ブルーレヴズ(静岡BR)のトライパターンの一つは、強力スクラムなどでペナルティを誘い、前進後にラインアウトモールで取りきる形だ。
前半11分にはそのラインアウトモールを起点に逆転を許すが、直後の前半12分だ。
チーム初先発のNO8ネイサン・ヒューズが、加入後初のボールスティール。前進後に強力フォワードの静岡BRに対して近場で真っ向勝負。元イングランド代表のNO8ヒューズがみずからねじ込み、7点追加で浦安DRが逆転(10-5)した。
浦安DRは自陣ラックでのペナルティからふたたびモールでスコアされるが、同点(10-10)で迎えた前半22分。
相手のオフロードパスが乱れてNO8ヒューズが捕球。ターンオーバー発生直後の一気のアタックで、WTB石井魁が今季自身5トライ目を決める。17-10と勝ち越しに成功した。
浦安DRはフォワードを中心に奮闘した。
強烈なフィジカルを誇る相手と渡り合い、リーグNO1の声もある強力スクラムに対しても力強く対抗。前半29分、自陣ゴール前のペナルティで静岡BRはラインアウトを選択。直後のモールで3トライ目は許したものの、スクラムを選択させない状況を生んだ。
浦安DRはキックのダイレクトなどを原因として失2連続トライを浴び、前半を10点ビハインド(17-27)で終えた。
勝負は後半だ。ここ数試合は、後半の連続失点が課題となっている。相手に流れを渡し、そのまま押し切られてしまう
今日こそソフトな時間帯を作らずに80分間一貫したプレーができるか――。
しかし後半最初のトライは静岡BR。今季ブレイクしている相手WTBヴァレンス・テファレの突進からトライが生まれ、浦安DRは17点(17-34)を追う展開となった。だが、浦安DRはこれまでとひと味違った。取られても取り返した。諦めずに何度もカムバックした。
「シーズン終盤で互いに疲れが溜まっていたり、アウェーの雰囲気もあった中、今日は全員があきらめずに最後までファイトできたところはポジティブだったと思います」(SO田村ゲームキャプテン)
「全体的に強いフィニッシュができました。今シーズンは結果こそ出ていないですが、最後まであきらめない強い精神力というところは出始めています」(レイドローHC)
まずは後半9分。
浦安DRでブレイクしているWTB松本壮馬が、代名詞となりつつある度胸満点の突進。防御壁に穴を開けると、オフロードパスからCTBサム・ケレビが突破。トライ後のゴール成功で10点差(24-34)。
さらに連続トライ。
自陣22m内からのピック&ゴーでNO8ヒューズがロングゲイン。
フォローに走ったSH飯沼がトライエリアに飛び込んで7点奪取。
一時あった相手の優勢ムードは消え、点差を3(31-34)まで一気に縮めた。
「本当に各ポジションにインパクトのある選手がいますし、プレシーズンからやってきたことをしっかり出せていると思います。本当にこれぐらいやれる実力はあって、得点力はあると思います」(SO田村ゲームキャプテン)
さらに1トライを奪われるが、今度は元静岡BR(ヤマハ発動機)のヘルウヴェが、ゴール前のタップから強烈トライ。またも3点差(38-41)。必死に食らいつく。
だが、浦安DRはここから劣勢となり失3連続トライを浴びる。
現代ラグビーはエリア両端でアタック側の数的有利が生まれやすくなっており、ウイングのディフェンスの負荷が高くなっているという。そのウイング側を攻略されて後半24分に1本目を奪われた。
さらに2分後(後半26分)、必死に戻ってトライセーブのタックルを放ったSH飯沼主将が、タックル後のプレーでイエローとなって14人に。
この後2連続トライを奪われた。
「(今日の52得点は)ポジティブに捉えるべきだと思いますが、62点を取られてしまうことが課題です」とWTB石井は話した。「勢いを与えるようなアグレッシブなプレーをしたいと思っていましたが、個人的に良い学びもあったので今後しっかり修正したいと思います」
だが浦安DRは力強く80分を走りきった。
後半35分を過ぎて、ビハインドは24点(38-68)。この試合はもう勝てない――そう考えて試合を諦めるには十分な点差、残り時間だ。
だが浦安DRは2連続トライを奪う。途中出場のSH白栄拓也がテンポを刻む。フル出場のFL佐々木が右隅で、ヘルウヴェが中央で古巣相手に猛進を続ける。
そして後半37分に急遽再出場した先発HO松下潤一郎がモール最後尾でトライ。終盤になってもエナジーが落ちない浦安DR。
そしてこの試合最後のトライは、この日リーグ公式戦50キャップを達成した2人が絡んだ。途中出場のPR金廉が内返しのパスでキャリー。ディフェンス突破を生み、相手の守備ラインを押し下げる。直後、ラック脇のスペースを感じていたSH飯沼がピック&ゴー。チーム7本目を奪ってみせた。
コンバージョンを蹴った田村熙はプレースキック8本を全て成功。
後半だけのスコアは35-35のイーブン。今季最多の52得点を奪った。試合後、指揮官は収穫と課題について語った。
「チームに対するメッセージとして、終盤に強い終わり方(2トライ)ができたというところはポジティブに捉えている、と伝えました」
「ですが大量に得点を取られてしまうと、勝つことは難しくなってしまいます。最後にいいパフォーマンスをしましたが、あとは80分間それをどれだけ見せ続けるか。それをやることができれば、結果はついてくると思います」(レイドローHC)
リーグ戦の最終節を残して、浦安DRの12位が確定。ディビジョン2(D1)1位チームとの入替戦出場が決まった。
対戦相手は、昨季までD2で切磋琢磨していた豊田自動織機シャトルズ愛知(S愛知)。
D1残留を懸けた2連戦。その入替戦第1戦は5月24日(土)のビジターゲーム。愛知・ウェーブスタジアム刈谷が舞台だ。運命の第2戦は千葉・柏の葉公園総合競技場でのホストゲームとなる。
「対戦相手(S愛知)は決まりましたが、やることは変わりません。早く学んで、次の試合でどう修正していくか。目の前のことに向き合っていくしかないのかなと思います」(WTB石井)
入替戦の第1戦まで、残された時間は約3週間。D1残留へのすべての意志を、運命の2連戦に注ぎ込む。