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2024-25シーズン第16節
「逆風の先に待つもの」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2024-25シーズン第16節
◇浦安DR 19-61 BL東京(2025年4月25日@東京・秩父宮ラグビー場)
浦安D-Rocks(浦安DR)と、D-Rocksのトップパートナーである日本航空(JAL)がタッグを組んだ「JALラグビーナイト2025」。
その会場となった1万1408人の熱気に包まれた東京・秩父宮ラグビー場は、一週間の疲れを癒やすような心地よい夜風に吹かれていた。
リーグ最高峰のディビジョン1(D1)に初参戦している2024-25シーズン。
そのリーグ戦も、残すところあと3試合。
「JALラグビーナイト2025」で迎え撃つ相手は、昨シーズン王者の東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)。1948年創部の伝統あるチームであり、激しいプレーが大きな強みのひとつだ。
浦安DRは2022年創部だが、初挑戦のD1で地道に手応えを掴んできた。
ボールを持ってプランを遂行できれば、高い確率で得点することができる。強力スクラムも武器になっている。今季主軸として活躍を続けるCTBシェーン・ゲイツは「あとは経験と自信」と話す。
ナイター照明の下で展開された前半戦は、その「経験と自信」を深めるような40分になった。
U20ニュージーランド代表のLOハンター・モリソンが先発でリーグ初出場を果たし、この日途中出場からはネイサン・ヒューズもチームデビュー。
ゲームキャプテンは2試合連続でPR金廉という金曜ナイターで、浦安DRは力強いカムバックをみせ、秩父宮を沸かせた。
前半の闘いぶりについて、序盤にスティールを披露したCTBゲイツが(週一でレッスンを受けているという)日本語でこう話した。
「東芝(BL東京)はグッドチーム。試合のスタートはよくありませんでしたが、そのあとファイトしました。21対14は、みな嬉しかったです」
開始直後から強烈なアタックを見せつけたのはBL東京だった。
強烈な一対一の突進。スクラムハーフから直接のパスを受けて強烈なボールキャリアーが次々に突っ込んでくる。
だが浦安DRにも自慢のディフェンダーが大勢いる。HO金正奎がベテランらしい身体の捌(さば)きで相手を倒す。PR金廉、PR鍋島秀源も低い姿勢でタックルを放つ。
しかし流石は昨シーズンのチャンピオン。スクラムでプレッシャーを受けるなどして、前半6分から17分までに3連続トライを奪われる。その間にも新人のWTB松本壮馬がイーブンボールへ果敢に飛び込み、そのまま確保して敵陣攻撃につなげる場面もあった。
「泥臭いプレーは大事だと思っています。(下のボールに飛び込むようなプレーは)大学でもやってきたことで、自然に身体がいってしまう感じです」(WTB松本)
開始17分で相手が3トライ。このまま崩れていくのか。そんな不安がよぎる時間帯に、目の覚めるような一撃が決まった。
ラインアウトから準備したプレーを発動。ブラインドウイングの松本が思い切りよく接点に仕掛ける。松本は大学まではセンター(背番号12、13番)でありパスも仕掛けも慣れている。
パスを送った先は、角度をつけて走り込んでいたCTBサム・ケレビ。豪快に防御壁を打ち抜いた。現役オーストラリア代表のセンターは、さらに最後の砦、相手10番も振り切った。
観客席から、夜空をドンと突き上げるような歓声が起こる。ケレビがゴール下に飛び込み、鮮やかなトライが決まった(コンバージョン成功)。
浦安DRが7点奪取。実は3トライを浴びながら、チームはハドル(円陣)で修正を加えていた。
「ハドルでコネクトが緩かった部分をもう一回しっかり守ろう、言い合おうと話して、そこが改善されました。その結果、自分たちがボールを持つ時間が増えました」(PR金廉ゲームキャプテン)
一度相手に渡した流れを取り戻すにはハードワークが要る。そんな難しいチャレンジを昨季王者を相手に、浦安DRはやってみせた。まずは元フランカーのHO金正奎がチーム2本目のスティール。ボール奪取の職人技をみせる。
セットプレーも修正し、14点差(7-21)のまま一進一退。WTB松本はタッチライン際の裏へのキックを次々に決める。以前は失敗したこともあるプレーだったが、練習量で補った。
「(タッチライン際の裏へのキックは)いまのラグビーには大事だと教えられているので、めちゃくちゃ練習していました。今日は成功して良かったです」(WTB松本)
リーグデビューしたLOモリソンも溌剌とプレー。緊張が解れて肉弾戦の高揚を楽しんでいる。ラックでペナルティをおかしてしまったが、直後のラインアウトモールのピンチはチームで防いだ。
序盤の3連続トライから、浦安DRは崩れなかった。
すると前半38分。
浦安DRがスクラムからトリッキーな展開攻撃。SO田村熙が裏へキック。ターンオーバーを起こして好機到来。接点に走り込んだゲイツが突進、止められても身体を伸ばし、トライエリアに猛進。ここで展開に転じ、最後は――。
WTB安田卓平が、武器の鋭利なステップで切り裂き、今日2度目の大歓声。粘って粘って奪ったトライ(ゴール)で7点差(14-21)。メインスタンドでは万歳三唱も起きた。
プレー再開後、ホーンが鳴ると会場から湧き上がったのは「D-Rocksコール」だ。
「D-Rocks!D-Rocks!」
どこからともなく自然に湧き上がったそれは、選手やコーチ陣はもちろん、試合会場の下見や設営、準備などを行い試合開催を続けてきた運営スタッフの労力と情熱の成果、結晶のようだった。
最高のムードのなか、前半最後のプレーは相手のスローフォワード。防ぎ切った。
だが試合は終わりではない。大切なのは後半だ。後半開始前のハドルで、攻守に気を吐いたゲイツが、メンバーに檄を飛ばしていた。
後半スタートからの連続失点は、前節(コベルコ神戸スティーラーズ戦)の課題でもあった。前節は後半4、8分に失2連続トライ。追いかける展開を強いられた。
だから、ゲイツは言った。
後半の最初の10分間が大事だ。自信と勇気を持って、全員で集中してインテンシティ(強度)を上げよう。
「(日本語で)『次の10分間がめちゃめちゃ大事』と言いました。おれたちのフォーカスは、良いスタートの仕方、自信をもって勇気をもって全員で集中すること。インテンシティを上げることでした」
勝負は後半。絶対に"ソフト"な時間を作ってはならない。それはSH飯沼蓮主将もメンバーも重々承知していることだった。
しかし、どれだけ力を尽くしても、及ばないことがある。それはスポーツだけの話ではないだろう。ゲームキャプテンのPR金廉は、「相手が一枚上手」だったと率直に振り返った。
「(後半は)自分たちが我慢しないといけないところで、相手が一枚上手で、そこからズルズルいってしまいました。自分たちがボールを持つ時間を作れずガマンの時間が増えたと思います」
相手のBL東京は、前節、静岡ブルーレヴズ(静岡BR)に26-56というビッグスコアで今季2敗目を喫しており、今節は再起をはかる一戦だった。集中力は高く、立て直しのために「ボールキャリーで前に出ること」(BL東京・リーチマイケル主将)などを修正し、この日秩父宮に立っていた。
後半4分からの約20分間で、浦安DRは5連続トライを浴びた。逆転のための時間は残されていなかったが、浦安DRは敢闘精神をたやさなかった。後半36分には後半最初のトライを奪った。
それは、中盤エリアからCTBゲイツのロングパスがWTB松本に通り、途中出場の石井魁が1対1で勝利して突破。FBオテレ・ブラックへラストパスを繋げた一本だった。
しかし試合終了後のスコアボードは19-61。BL東京はボールを蹴り出せば試合終了の場面でもアタックを続け、9トライ目で締めくくってみせた。BL東京のリーチマイケル主将は試合後に「やらないといけないことを80分通してできた」と静かに語った。
今の浦安DRが目指す、80分間の一貫性を持ったチームの姿がそこにあった。
この日攻守にわたり奮戦したゲイツは、後半失速してしまった理由に問われると「経験と自信」と答えた。
「(すべて日本語で)チームは成長していると思います。2週間前、3週間前はいい改善がありました。でも、メンタルのところが一番の問題です。いまウチは経験がいります。経験と自信が要ります」
浦安DRは今季14度目の黒星を喫した。しかし翌土曜日、非公開で行われたトレーニングマッチでは、『RockStars』(ノンメンバー組の愛称)がBL東京を相手に40-38で勝利。チームの総合力を力強く示してくれた。
順調に進まないと感じる時にこそ、成長の機会が隠れているのかもしれない。
飛行機は、強い向かい風を受けることで、いっそう高く翔び上がる。
次節の相手はプレーオフ進出を決めている4位の静岡BRだが、浦安DRは立ち向かう。何度でも。一枚岩で。逆風の先に待つものを信じて。