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REPORTレポート
2024-25シーズン第15節
「文化を築くために」
◇NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25シーズン 第15節
◇浦安DR 20-33 神戸S(2025年4月12日@千葉・ゼットエーオリプリスタジアム)
自分が最高のパフォーマンスを発揮できるのは、どのような条件が揃ったときだろうか。2024-25シーズンの飯沼蓮にとって、その一つは「試合のときだけキャプテンという重責を下ろすこと」だったのかもしれない。
キャプテンのSH飯沼は、ディビジョン1(D1)第9節以降はゲームキャプテンの任を下ろし、一人のプレイヤーとしてピッチに立っている。
コベルコ神戸スティーラーズ(神戸S)との前回対戦時(第5節/22-50)もキャプテンを務めていたが、再戦となった第15節は、その役目をPR金廉に託した。
今は目の前のラグビーが超楽しいです、と飯沼は言った。
「以前は考えすぎてしまっていました。今は自分のプレーにフォーカスして、それがいいプレーに繋がっています。直感的にいいプレーができていると思います」(SH飯沼)
ただキャプテンとして、どうしても伝えたい言葉もある。
試合前、飯沼は前日に行われた静岡ブルーレヴズとの練習試合で、ノンメンバー組『RockStars』が42−24で快勝したことに触れた。そのエナジーをしっかり受け取り、ピッチの上で体現したいという思いがあった。
「(前日の練習試合で)ロックスターズのみんなが気持ちを見せてくれました。その気持ちをしっかり繋いで、スター軍団の神戸さんに対して、前半から気持ちを出していこうと伝えました。前半は、相手のアタックを苦しめるディフェンスができていたと思います」(SH飯沼)
浦安D-Rocks(浦安DR)は、ホストチームとして千葉・ゼットエーオリプリスタジアムに登場。ディビジョン2時代に幾度も試合を行ってきた、馴染みのあるスタジアムだ。
まずはスタートからボールを保持した浦安DRのアタックが炸裂する。
2試合連続でスタメンのFBイズラエル・フォラウをキーマンとした展開攻撃で前進。風下ながらボールキープでエリアを取っていく。
前半10分には相手フランカーがハイタックルでイエローカード。15対14と人数で上回るが、ハンドリングエラーなどで得点できないもどかしい時間が続く。
逆に自陣に下がって失点の危機。対峙する神戸Sは現在5位。強力なアタックが脅威であり、今週RockStarsの石井魁も「乗らせたら怖い」とその攻撃力に警戒感を示していた。
だが、ここで浦安DRが高いディフェンス力を発揮し、初得点を奪ってみせる。
起点は、前半17分のFL繁松哲大の強烈タックル。落球を誘って攻守が入れ替わった。
ここからカウンターで一気に相手陣へと攻め込み、5フェーズ目。CTBサム・ケレビが鋭い突破でディフェンスに穴をあけ、そのオフロードパスを受けたFBフォラウがその穴を大穴に変える。さらに連続パスを受けたWTB松本壮馬が勢いよく駆け込み、見事に先制トライを奪った。
5点をリードした浦安DRは、その後も集中を切らさず、得点を許さない。
前半24分には自陣ゴール前で粘りのディフェンスを見せ、こぼれ球にHO金正奎が反応してターンオーバー。すかさずSH飯沼が狭いサイドにショートパントを送ると、これをFBフォラウが空中でキャッチする美技を披露した。
流れを掴むと、相手のペナルティで前進して、迎えた前半26分だ。
相手陣右サイドでのラインアウトから、鮮やかなサインプレーが決まる。SH飯沼のフラットなパスにタイミングよく走り込んだCTBケレビが、ディフェンスを突き破って2本目。コンバージョンも成功し、浦安DRがリードを12点に広げた。
神戸Sの初得点は前半37分。1トライを返されてリードは5点(12-7)に縮まったが、前半ラストは粘り勝ち。HO金正奎、PR鍋島秀源、FLトム・パーソンズらが高速リロード&タックル。最後はノックフォワードを誘って、5点リードのまま前半を終えた。
しかし浦安DRは後半、ペナルティが急増した。
前半6回だったペナルティは後半11回に。グレイグ・レイドローHCは「前半はいいスタートを切れましたが、後半は15分間で7つのペナルティをしてしまいました」と振り返った。
初のゲームキャプテンを務めたPR金廉は、ピッチでの体感として「後半ペナルティを一つしてしまったとき、切り替えがうまくできずパニックになり、またペナルティという流れが続いたと思います」と反省。
後半出場したセコナイア・ポレは、スクラムなどでペナルティが増えた理由として「スイッチが切れて気の緩みがでた瞬間がありました。スクラムにまだボールがあるのに出たという認識の間違いもあったりして、そこで押されたこともありました」と語った。
この浦安DRのペナルティにつけこみ、神戸Sが後半4、8分に連続トライ。さらに反則の繰り返しによって後半17分から竹内柊平にイエローカード。大事な時間帯を14人で戦うことになり、さらに1トライを奪われてビハインドは14点(12-26)に拡大。
SH飯沼も主な敗因は後半の立ち上がりだったという認識だ。
「後半の始めに自陣に入られ、気を抜いたところで徐々に差し込まれ、どうしてもラインオフサイドなどのペナルティが多くなってしまいました。セットプレーでプレッシャーを受けた時間があって、そこで2トライを取られました」
80分のどこかに10、20分ソフトな部分があり、チャンスを与えてしまう。ターン制の競技特性からして難しいチャレンジだが、その時間帯をゼロにしたい。そうすれば必ず勝てる、という自信が飯沼にはある。
ただ「ソフトな時間」はシーズン前半に比べて減っており、試合の得点差は縮まっている。D1初勝利までの6敗の得点差は1試合平均で24.3点。しかし、その後第14節までの6敗の同数は13.7点と大幅減。僅差の試合は、確実に多くなっている。
「今日も、シンビンが出てしまって難しいシチュエーションになりましたが、以前だったらズルズル崩れてしまうところ、ここ最近は立て直せています。でも、そこが勝ちに繋がっていません」(SH飯沼)
浦安DRが粘りの得点を披露したのは、長い攻防があった後半20分ごろ。ここでボールを確保すると、防御裏のスペースを察知していた途中出場のSO田村熙が、技ありのショートキック。ここで終盤のきつい時間帯にアクセルを踏んだのがWTB松本だ。
ライン際でバウンドしたボールを捕球して、そのままトライエリアへ。14人の時間帯に1トライを返す大きな一本を奪い、これで9点差(17-26)となった。
さらに竹内がピッチサイドから戻ると、後半28分にビッグスクラム。相手ボールスクラムで3番側から押し込み、ペナルティを誘った。
ここで1番側のプロップで出場していたポレは、好調なスクラムワークを問われると、サポートの心構えを語った。
「スクラムで私が調子良さそうに見えたとしても、スクラムはチームとして全体として共通の目的を達成するために組んでいます。軸である3番を助けるために1、2番の選手がサポートする形です」(PRポレ)
まさにその3番(竹内)が前に出るスクラムで反則を誘い、ここでペナルティーゴール成功。一本のスクラムによって、ビハインドはついに6点差(20-26)となった。
残り10分で6点差。
この勝負所で、高い遂行力で15フェーズのトライを決めたのは、神戸S(後半32分)だった。
浦安DRもペナルティをせずに守り続けたが、こじ開けられた。最後は神戸Sがフォワード戦で時間を使うなどし、13点リードを守り切った。
敗戦後、後半のプロップ一時退場によるスクランブル出場もあったゲームキャプテンの金廉が語った。
「前半は自分たちが準備してきたこと、プランをしっかりと遂行できました。しかし後半の厳しい時間帯にペナルティが多かったですし、細かいディテールの部分が欠けていました。それが結果として出たと思います」(PR金廉ゲームキャプテン)
SH飯沼は「どんな相手にもタイトな試合はできています」と話す。ただ一貫性に関していえば「今日は10分間だけできませんでした。そこを80分間できるように文化をつくっていきたいです」と、バイウィーク(休みの週)明けの闘いを見据えた。
『RockStars』から受け取ったバトンや、チームのスタイル。それらを体現できた時間帯は確かにあった。ただ、それを80分間表現できるチームの文化は、まだ道半ば。今は歯を食いしばりながら、その文化を築こうと、脚を一歩ずつ前へと踏み出している。
次戦は2週間後。東京・秩父宮ラグビー場での金曜ナイターで、3位の東芝ブレイブルーパス東京にチャレンジする。