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REPORTレポート
2024-25シーズン第13節
「栄光への伏線」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2024-25シーズン第13節
◇浦安DR 26-54 埼玉WK(2025年3月29日@宮城・キューアンドエースタジアムみやぎ)
今季初先発を飾った33歳のHO金正奎。
常翔啓光学園、早稲田大学を経て、NTTコミュニケーションズでは主将も務めた経験豊富なベテランには、揺るがぬ実感がある。チームという生き物の浮き沈みを生身で経験してきたからこそ、それが分かる。
浦安D-Rocks(浦安DR)は確実に成長している。
「(今季の浦安DRを)『勝ち負け』という物差しで見てしまうと沈みっぱなしということになってしまいます。でも、チームがちゃんと成長できているのかというところに目線を向けると、僕はちゃんと右肩上がりにきていると思います」
「今日の試合だって、ほとんどの選手が、先週の試合に出ていないです。でも前半、ワイルドナイツ相手にあれだけできることを見せられた。組織として全体のレベルが上がってきていることの証拠です」
ディビジョン1(D1)第13節。浦安DRは、前節から先発11名、リザーブ6名を替えてリーグ初代王者・埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK)を迎えた。今節の出場メンバーにはRockStars(ノンメンバー組の愛称)として貢献してきた選手も多かった。
「ショックス」の愛称で親しまれる日本代表7キャップ保持者が、「あれだけできる」と振り返った前半40分間は、笑顔からスタートした。
キックオフ直前。冬に逆戻りしたような寒風が吹く中、ピッチの片側で組んだ円陣では、ゲームキャプテンのSO田村熙が微笑んでいた。その言葉を通訳するイングランド出身の元トップ選手、大崎琢也氏も笑みを浮かべている。
「みんな集中するとけっこう硬くなってしまうので、トップチーム(埼玉WK)との差はないし、この瞬間を楽しもう、ということを言いました」(SO田村)
チームは『やれる』という感覚を持てたときは強い。だが浦安DRは、今季が初めてのD1参戦であり、今日に限ってはD1経験の少ない選手もいる。『どこまで通用するのか』と模索している状況であり、『やれる』という確信を得るまでは、プレーに硬さが出てしまう。
「どこまでできるか分からない選手たちは、プレーが乗れるかどうかで、最初は硬くなります。僕としては、そんなに差はないということを伝えて、そういう表情(笑顔)になったと思います」(SO田村)
笑顔のスタートが奏功したか、浦安DRは機先を制した。
相手ハイパントをFB クリス・コスグレイヴがキャッチし、敵陣10m付近から連続攻撃。PRセコナイア・ポレの巧みなパス。アーリーエントリーしたCTB松本壮馬(関西学院大学)の突進。それぞれが思い切り良くアタックすると、SO田村が間隙を突いて突破口を開く。
ここから相手エリアをえぐり、SH橋本法史のテンポ良い球出しから、業師のCTBルテル・ラウララのクイックパスを受けたのはふたたびFB コスグレイヴ。アイルランドから初来日の23歳がアタックの結末も飾ってリーグ初トライ。
トライ後には笑みがこぼれた。
トライ後のコンバージョンは田村熙。自陣に引き返した円陣では、キャプテン経験豊富な金正奎が語りかけていた。
「次に何をするかを明確にして、実行しよう、ということを伝えました。特別なことは言っていません」(HO金)
ファーストスクラムでも埼玉WK相手に重圧をかけた。前半5分に埼玉WKに1トライを返されて逆転(5-7)されるが、直後に気を吐いたのはNO8ブロディ・マカスケル。オーストラリア出身の好漢が、この日初のスティールを決め、攻撃権を奪った。
「3、4シーズンぶりに本職のナンバーエイトで80分プレーしましたが、個人としては仕事は果たせたかなと思います。チームとしては、前半は特に一週間準備したことを実行することができました」(NO8マカスケル)
このマカスケルのスティールで奪った敵陣ラインアウトでは、準備していたプレーでトライを奪った。
ラインアウトでHO金正奎がすぐにスローイン。ジャンパーのリフトはなし。そのままモールを高速で組み、モメンタムを活かして前進。そのままトライエリアに雪崩れ込み、FL小嶋大士がグラウンディングした。
パワー&テクニックで、モールでのフィニッシュ。2連続のトライエリア奪取で12-7とリードした。
しかし展開は、双方の攻撃力が守備力を上回る"乱打戦"が続いた。
前半12分、埼玉WKに2本目を決められて再逆転を許してしまう(12-14)。しかし浦安DRは、頼れるゲームキャプテンに今季初トライが飛び出した。
相手のノックオンで敵陣スクラム。
そのスクラムを安定させると、ボールを受けた田村熙が穴を見つけてクリーンブレイク。
CTB松本のランに相手が釣られたと見るや、冷静なラン選択でそのまま出場7試合目での今季初トライ。走りながらも冷静に好判断を重ねる、田村らしい3トライ目が生まれた。
19-14とリードした前半19分には、元フランカーの金正奎がスティール。ショートキックからのカウンターラックを起点に埼玉WKに3トライ目を取られ、またも2点ビハインド(19-21)。だがエナジーは落ちる気配がない。
アーリーエントリーのCTB松本はすでに風格アリ。前半25分にはインターセプトし、ノールックの背面パスでボールを活かす小技も繰り出し、観客席をどよめかせる。
前半34分には4本目を取られて9点差(19-28)まで引き離されたが、浦安DRにはモメンタムがあった。
敵陣ラインアウトから5フェーズ目でSO田村がループ。FBコスグレイヴの囮のランが効果的となり、外側で2対1。抜け出した元マオリ・オールブラックスのWTBタナ・トゥハカライナが懐の深いランで抜け出して――。
『やれる』の確信をより強固にする、チーム4本目を奪った。
最後にSO田村はスティールまで決めてみせ、ピンチをしのいで前半終了。26-28の2点差で前半40分間の攻防を終えた。グレイグ・レイドローHCは今節のメンバー起用について答えるなかで、チームの総合力を誇った。
「(今節メンバーを大きく変えた)狙いとしてはプレータイムが増えているメンバーが多かったので、コンディションの部分が大きいです。前半はフレッシュで元気な選手を使うことによって、かなりいいパフォーマンスを見せられたと思いますし、ローテーションをしてもいい選手が揃っていることは見せられたと思います」(レイドローHC)
埼玉WKも主力が数名メンバー外となっていたが、王者のスタンダードを持っていることに変わりはない。そんな強敵を相手に、熱戦をくりひろげた。
「(先週から)メンバーがガラッと変わりました。一週間という準備期間しかなかったですが、その中でも選手は一体となって濃厚な時間を過ごせました」そう言って金正奎は胸を張った。
「それがパフォーマンスにも出たのかなとはすごく感じます。勝てなかったことは悔しかったんですけど、ラインアウト起点でトライが生まれることが何回かあったり、取りきるところで(トライを)取れたことは収穫です」
ただ埼玉WKは後半に強い。後半に主力同然の大型戦力を投下し、スクラムやボール争奪戦を制圧、得意の「堅守速攻」でトライを重ねていく。その強さは選手も指揮官も分かっていた。もちろん田村熙も理解していた一人だ。
「ワイルドナイツは後半20分以降に自分たちの時間がくると分かっていたと思います。その通りになりました。僕らもそこは分かっていましたけど、それでも上手くいかないのは、クラブとしての経験の差もあると思います」
浦安DRは後半、4連続トライを奪われ、アタックでは無得点となった。
ただ見せ場もあった。後半開始直後、先発PR竹内柊平が得意のピック&ゴーでビッグゲイン。そのままキックまで放って陣地を挽回した。
後半12分には途中出場からアーリーエントリー組がリーグデビュー。東北出身の2人が守備で魅せた。秋田県出身のPR梅田海星(帝京大学)が激しいタックルを放てば、青森県出身のFL佐々木柚樹がラックで圧力をかけ、HO金正奎のスティール(相手のアドバンテージ中)をアシストした。
さらに1年目のアタッキングハーフ、SH白栄拓也(筑波大学)も後半31分、ついにデビュー。後半21分にはラックから抜け出してきた相手フォワードを一撃で倒し、強みのディフェンスで早速貢献した。
この日デビューした3人のうちの一人、FL佐々木は「めちゃくちゃ緊張しました」と振り返った。納得のいく出来ではなかったというが、青森から宮城の会場に来てくれた両親や、八戸工業高校の後輩たちに勇姿を見せることができた。
「東北でプレーできたことがまず嬉しいです。東北は関東や関西、九州に比べるとスクールも少なくて、ラグビーもそこまで認知されていないと思うので、東北でラグビーをして面白さを伝えられたなと思っていたので、嬉しかったです」
「試合に関しては、初めてのリーグワンの試合でしたし、ここ何試合か外から見ていて迫力も違うし、中に入ったらレベルの高さに驚きました。シンプルに一対一で止め切れていない部分は明確な課題ですが、細かなスキルを磨いて、揉まれながら成長できたらと思います。もう少しスキルとかを突き詰めていけば戦えるなと感じています」(FL佐々木)
前半で接戦を演じた浦安DRは、後半に突き放され、そのまま26-54で敗れた。前後半で試合内容が大きく変わった点について、レイドローHCはこう話した。
「80分を通して長期的にチームが機能することは、継続的に改善していくところです。こういった経験が将来に生きてくると信じて、続けるのみです」(レイドローHC)
こうした経験がいずれ活きてくる。金正奎も指揮官と同じく、中・長期の視点を持っている。
「(今季の経験は)絶対に必要だと思います。自分たちはこれまでディビジョン2に2シーズンいて、正直、そこでは勝つことが当たり前のようになっていました。いま、それが当たり前じゃなくなった。それを経験していない選手がたくさんいる中では、やはり歯を食いしばって闘い続けることがチームとして必要です」
「もちろん、今日のこの結果は悔しいです。ただプロセスのなかで見ると、良いプロセスをどんどん踏めています。中・長期的に見ると、3、5年後に『あの時の1年目があったからこのシーズンがあるね』と言えるようになると思います」
この敗戦も、やがて栄光への伏線になる。
そう信じて、浦安D-Rocksは一枚岩で歩みを止めることなく、前へと進む。