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2024-25シーズン第12節
「2度目の歓喜」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2024-25シーズン第12節
◇浦安DR 39-31 S三重H(2025年3月22日@三重・三重交通Gスポーツの杜 鈴鹿)
オーツ(オテレ・ブラック)がボールをタッチへ蹴り出した瞬間、張り詰めていた緊張の糸が、ふっと解けた。
鈴鹿の青空に、ノーサイドの笛が響き渡る。
浦安D-Rocks(浦安DR)、待望のディビジョン1(D1)2勝目。
ピッチではプレッシャーから解放された選手たちが、抱き合い、大きな笑顔をかわしている。開幕節以来の出場となった背番号19ジェームス・ムーア、後半からフルバックの位置に入った田村熙の笑みも輝いている。三重県鈴鹿市のビジターゲームの観客席から、あるいは中継映像を前に声援を送ったD-Rockers、そしてチームスタッフ――全員で今シーズン2度目の歓喜を味わった。
勝利後のロッカールーム。熱戦の余韻にひたる最高のひととき。フル出場したWTB安田卓平は、第7節以来、約1カ月半ぶりの瞬間を愉しむ仲間たちを見ながら、しみじみと思った。やっぱりこの瞬間が好きだ。
「負けるとやっぱりチームは暗くなります。ただ今週も良い準備ができていました。(ロッカールームを示しながら)こういう、勝てた後のロッカールームは、個人的に一番好きなところです」(WTB安田)
浦安DRがここ鈴鹿で三重ホンダヒート(三重H)と対戦するのは、これで2度目だ。
1度目はチーム創設以来初の公式戦。2022年12月のディビジョン2開幕節だった。当時の先発ハーフ団は今日とおなじSH飯沼蓮とSOオテレ・ブラック。リザーブの背番号21は現指揮官、現役ラストシーズンに臨むグレイグ・レイドローだった。
あれから2シーズン後、共にD1昇格を果たした三重Hと浦安DRが再び鈴鹿で相まみえた。山々に雪がのこる底冷えの12月だった初対戦とは異なり、きょうは春の訪れを感じさせる温暖な日和だ。
イエローのオルタネイトジャージに身を包み、浦安DRが登場した。
前半戦が始まると、気まぐれな風向きと同様に主導権は定まらず、どちらが有利とも言えない乱打戦となった。
そんな混戦でゲームに安定感とチャンスをもたらしたのが、「オーツ」ことSOブラックだ。風上の浦安DRは、「オーツ」のハイパントで着実に前進。安田卓平と松本壮馬の両ウイングは果敢な競り合いでボール確保に貢献した。
「チャンスがあればアタックをして、ボールを蹴るところは蹴る――きょうはそのバランスが良かったと思います」(レイドローHC)
ディフェンスも好調。序盤からNO8トゥクフカトネ、LOトム・パーソンズが連続スティール。強烈な突進力を誇る三重Hのアタックに対抗する。
しかし、序盤は守備力に定評のある三重Hの壁を崩せず、前回対戦時のように開始直後のトライを奪うことはできなかった。それでも、浦安DRには「足技」という選択肢があった。
5度目の敵陣22mアタックを仕掛けた前半12分。ラインアウトで手に付かなくなったボールを受けた司令塔「オーツ」が、防御裏へとチップキック。これをCTBサム・ケレビが巧みに捕球し、トライエリアへ。二の矢、三の矢に活路を見出した浦安DRが7点を先制した。
ここからトライの応酬が始まった。
三重Hが強烈なキャリーで1トライを返す(前半22分)。しかし浦安DRも反撃。新星WTB松本壮馬が2試合連続のトライを決め、暴れるような強風の中、「オーツ」がコンバージョンを決めて14-7と勝ち越す(前半25分)。
ところがホストゲームに強い三重Hは、自陣22m内で展開した浦安DRのファンブルを誘い、すかさず2トライ目を奪取。再び同点(14-14)に追いつく。
ただ、浦安DRには苦しい場面で光るプレイヤーが数多くいる。その一人が、勤勉なチェイスでインターセプトを多く生み出すCTBシェーン・ゲイツだ。敵陣ゴール前で相手のパスを見事に捕球し、チーム3本目のトライ。21-14と再びリードを奪った(前半30分)。
しかし、三重Hもホストの歓声を背に、キックオフボールのノックオンから得た好機をしっかりと決めきり、3本目のトライを奪う。
お互いに3トライずつを取り合う激しい展開となる中、「オーツ」が強風の中で冷静にショット成功(前半40分)。浦安DRが3点リード(24-21)で後半へと入った。
浦安DRの苦境はラスト20分でやってきた。
後半5分にSH飯沼蓮主将がゴール前のラックを制してトライを奪い、リードは8点に広がった。しかし三重Hは風上の有利も活かしながら高いアタック力を発揮。浦安DRは2連続トライ(後半14、20分)を奪われ、この日初めてリードを許すことになった。
スコアは2点のビハインド(29-31)だ。
しかし、メンバー23人で、全員で、苦境を乗り越えた。一定の一貫性を示した。
「自分たちのプレーが80分間できれば勝利が見えてくると思っていますが、ここ数試合、前半は良くて後半が悪い、といった試合が続いていていました」。WTB安田は言った。「きょうは前半の終わり、後半の始めで難しい部分はありましたが、『一貫性』に関しては全体的に長い時間、できたかなと思います」
残りは20分間。
リードされた直後のスクラムだった。交替したフロントロー(HO金正奎、PRセコナイア・ポレ、PR竹内柊平)を擁する浦安DRがスクラムで初のペナルティ。後半メンバーが実力を証明する。
後半31分には三重Hがリードを広げるトライ――と思われたが、ここは危険なプレー(クロコダイルロール)によってノートライの判定。相手にイエローカードが出て、逆に数的有利(15対14)となった。
ただこのプレーでCTBゲイツが負傷交替。緊急でウイングの位置に入ったのはスクラムハーフが本職の22番、橋本法史だ。
数的有利はあるが、けっして万全の状態ではない。数的不利となった相手のギャンブル・ディフェンスにハマることもある。
だが、浦安DRは、高い遂行力で2連続トライを浴びせた。
後半34分。WTB安田が衝突で足首を痛めた。本人は「タックルされて痛めましたが全然大丈夫でした」と振り返る。だが受傷直後の安田は、たしかに表情を歪めていた。その直後、背番号11がトップスピードで走っていた。
ラインアウトから安田を切り札としたサインプレーを繰り出す。今季リーグ50キャップを達成した安田がロングゲイン。さらに立ち上がってライン参加。大外にいたツイヘンドリックにラストパス。トライのアシストまで、やってのけた。
WTB安田には、責任を果たしたい、仲間の奮闘に応えたい、という思いがあった。
「ここ数試合、ラインアウトの内側がずっと良い仕事をして外にスペースがあったのですが、モノにできていなかったので、責任を感じていました。(ラインブレイクの場面で)あの時も良いスペースをもらったので、ラインブレイクした後、相手ディフェンスが上がっているのも見えてヘンディ(ツイ)の声が聞こえたので、外に投げました」(WTB安田)
ここで元日本代表のツイが、左隅に逆転トライ。
3点リード(34-31)を奪うと、さらにライン参加した橋本のパスなどから突破。アーリーエントリーのWTB松本が頭から突っ込み、この日自身2トライ目。終盤の渾身の2連続トライで――
ファイナルスコアは39-31。前後半のペナルティはわずか「6」(公式記録)。規律正しいディフェンス、セットプレー、そして高いアタック遂行力で、強敵に勝ち切った。
「チームのパフォーマンスを誇りに思います」
レイドローHCの声には、確かな実感がこもっていた。
「三重ホンダヒートさんは、ホストゲームで力を発揮するチーム。ビジターとして戦うことは大きなチャレンジでしたが、スタートメンバーもベンチメンバーも、それぞれが大きなインパクトを与えてくれました。チームは確かな成長を見せてくれました」
これからも何度でも勝利を味わいたい――。
それができるチームだ。そう信じられるチームだ。
今週の第13節では、今季3勝目を狙う。ホスト会場となるのは宮城県のキューアンドエースタジアムみやぎ。迎え撃つ相手は、リーグ初代王者で現在2位につける強敵、埼玉パナソニックワイルドナイツだ。