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REPORTレポート
2024-25シーズン第11節
「熱狂と試練」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2024-25シーズン第11節
◇浦安DR 22-33 S東京ベイ(2025年3月14日@東京・秩父宮ラグビー場)
ビルの谷間で、満月が煌々と光っている。
金曜の夜、秩父宮ラグビー場。月明かりとナイター照明に照らされた「日本ラグビーの聖地」には、これまで見たことのない光景が広がっていた。観客席の随所がマゼンタカラーに染まっているのだ。
浦安D-Rocks(浦安DR)の第11節ホストゲームは、「deleteCマッチ」として実施された。
2022年のチーム創設初年度から「みんなの力で、がんを治せる病気にする」を掲げるプロジェクト「deleteC(デリート・シー)」に参画してきた浦安DR。この日選手たちはdeleteCのメインカラーであるマゼンタを基調とした、特別なジャージを着用し、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)との一戦に臨んだ。
また、この日は来場者先着10,000名にマゼンタ色のベースボールシャツが配布された。そのため日本ラグビーの聖地がマゼンタ色に染まる、稀少な景色が広がることになったのだった。
夜桜を連想させる風情も漂って、祝祭的な空間となったピッチに浦安DRメンバーが登場してきた。
ディビジョン1(D1)で3位につけているS東京ベイと対峙する先発15人の中には、ゲームキャプテンのHO藤村琉士、元S東京ベイのLOヘルウヴェ、急遽スタメンになったNO8トゥクフカトネ、キャプテンのSH飯沼蓮ら。
前節からの先発変更では、第2節以来の出場となったFL大椙慎也、先発は第7節以来となるFL繁松哲大の明治大学出身コンビ、またリーグデビューとなった新加入FBクリス・コスグレイヴの姿もある。
「完璧とまではいきませんが、前半のようなラグビーが、自分たちが目指している理想に近いラグビーでした」(浦安DR、グレイグ・レイドローHC)
一昨季のリーグチャンピオンを相手に、前半40分間とはいえ15-0の闘いをみせた。浦安DRの理想に近いラグビーを体現すると、ここまでできる。それを観客14,056人の前で証明した。
キックオフ直後からディフェンスは鋭く、的確で、激しかった。
開始4分。FL繁松が矢のように相手の足元に刺さった。フィールドプレーの貢献度も高いFW第1列(PR鍋島秀源、HO藤村、PR金廉)も低い姿勢で襲いかかる。そしてCTBサム・ケレビが強烈タックル。攻守交代を誘った。
前半は、RockStars(ノンゲームメンバー)の小西泰聖がプレビューで警戒していたモールからのトライは、一度もなかった。前半6分の自陣での相手モールも止め、最初のスクラム戦においても相手の反則(ヘッドアップ)を誘った。
ヤスパー・ヴィーセが着る予定だった背番号8を急遽着用したトゥクフカも、前半10分に敵陣右でスティール。得点チャンスを呼び込んだ。
「(前半)良いアタックができていたので、アタックに目がいくと思いますが、前半に一番良かったのはディフェンスでした。コリジョンエリア、衝突に勝つことでブレイクダウンを遅らせることができていました」(レイドローHC)
先制トライは強烈だった。
この日堅調だったラインアウトからワイドへ展開。ここからCTBサム・ケレビが強烈な2連続のボールキャリー。相手フォワードを弾き飛ばす、豪快な一撃。SOオテレ・ブラックもトライ後のコンバージョンを決め、7点を先制した。
「(浦安DRは)前半すごくプレッシャーを掛けてきましたし、称賛されるべきです。特にワイドからワイドにボールを動かし、良いトライをしていました」
その言葉の主は、「アイスマン」の異名を取る世界的司令塔、スピアーズのゲームキャプテンを務めたSOバーナード・フォーリー。彼が言及したシーンの一つは前半21分、関西学院大学からアーリーエントリーしたWTB松本壮馬のリーグ初トライだろう。
ワイド攻撃の端緒は前半20分過ぎ。LOヘルウヴェが相手モールに絡みつき、自陣左でターンオーバー。そこへFL大椙がセキュリティに駆けつけてボールをキープした。
ダイナミックに左右へボールが動く。左隅でスワーブを切ったCTBシェーン・ゲイツのパスでFL大椙が突進。ここからまたボールを右隅へ。NO8トゥクフカのラストパスを受けたのは22歳の弾丸ランナー、松本。ワンステップで相手を振り切り、流血しながら殊勲の2本目を沈めた。
トライ後のキックは不成功も12-0とリード。さらに前半34分にはペナルティゴール(PG)で3点も加えた。
攻守の肉弾戦、強いスクラム、安定感のあるラインアウト、そしてアタックの遂行力――。多くの領域で好プレーをみせた浦安DRが、今季ベストと思える前半戦で15点リードのまま後半へ入った。
いや、絶対にこのままでは終わらない。後半、相手は必ず反撃してくる――。
そこは一人ひとりが理解していただろう。だからこそ受け身に回ってはならないと、チームのキャプテンが渾身のプレーをみせた。
後半2分、相手10番の内返しのパスを察知し、インターセプトしたのは飯沼蓮だ。
マゼンタ色の観客席から爆発的な歓声が降り注いだ。
本来の自分から、少し遠のいた時もあった。SH飯沼は今季第5節で「昔はもっと楽しみながら、チャンスを見つけ、ワクワクしながら攻撃的にプレーをしていましたが、キャプテンをやってちょっと真面目すぎたと気づきました」と語っていた。試合の時だけゲームキャプテンの肩書きをHO藤村に預けている25歳は、ハツラツと約60mを走り切った。
ゴール成功で、リードはいよいよ22点。
しかし、S東京ベイが後半5分から力を発揮した。
「前半と後半で完全に違う試合でした」
そう振り返ったのは、「オーツ」こと司令塔のオテレ・ブラックだ。
ニュージーランドの強豪ブルーズで南半球リーグの優勝も経験。浦安DRはセンター、フルバックとしてもプレーしてきた。
「(S東京ベイは)リザーブにも世界トップクラスの選手が揃っていて、彼らが後半に登場した時に流れを変えられました。彼らにフィジカリティがあることは知っていましたが、理解していることと実行することは違います。インパクトを感じました」(SOブラック)
ブラックが言及したスピアーズの「彼ら」とは、南アフリカ代表でヤスパー・ヴィーセと共に闘うマルコム・マークス、昨年日本代表にデビューしたPRオペティ・ヘルらだろう。後半0分から投入され、S東京ベイの勢いは増していた。
火力が増したS東京ベイに後半5分に1本目を返されると、同13分、浦安DRのシンビン(故意の反則による)と被2トライ目が重なってしまいリードが一挙8点差(22-14)に縮まった。
14人の間にフォワード戦が劣勢となり、さらに被2連続トライ。22-26と逆転されると、キックゲームの劣勢から後半30分に5本目のトライも追加された。
22点のリードから5連続トライを浴び、スコアは11点ビハインド(22-33)に。相手の勢いを止められず、浦安DRは今季2勝目を逃した。
「質の高いチームからは、そう簡単にチャンスはもらえません。相手がうまく対抗してきた時にこそ、どうやって勝ち筋を見つけるか。後半はそれができず点を取られてしまいました。そこを修正して勝てるチームになっていきたいと思います。それができれば本当に良いチームになれると思います」(レイドローHC)
前半は安定感あるセットプレー、充実の攻守をみせた。どうすれば前半のようなラグビーを80分間続けることができるのだろうか。経験豊富なSOブラックは、その問いに対してこう答えた。
「普通であれば、22点リードしていれば、その勢いのまま終わらせることができます。それができない理由としては、リーグのレベルが年々上がっていることが一つの理由だと思います。ラグビーの理解度も上がっています」
浦安DRにはD1初挑戦という試練もある。
「リスペクトのない発言のつもりはないのですが、過去2シーズン闘っていたディビジョン2では、途中で集中力が切れても勝てる試合が続きます。(D1で)タフな試合を毎週やり続ける、我慢強くやっていくことが、若手の選手らにとっても良い学びになると思います」
そう語るSOブラックの眼は、ちょうどHポールを見据える時のそれに近かった。
タフな試合を毎週やり続ける。我慢強くやっていく――そうすることで身につく力、学びがあるのだろう。
次の相手は、浦安DRがD1初勝利を挙げた相手、三重ホンダヒート。すでに4勝(7敗)を奪って9位となっている強敵と、三重交通G スポーツの杜 鈴鹿 (三重県)で激突する。