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2024-25シーズン第10節
「勝利への執念」
◇NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25シーズン 第10節
◇浦安DR 31-36 トヨタV(2025年3月1日 福島・Jヴィレッジスタジアム)
その走りは、まるで勝利への執念そのものだった。
前半39分40秒。21点を追いかける浦安D-Rocks(浦安DR)のNO8ヤスパー・ヴィーセが、こぼれ球を無人エリアにおもいきり蹴り返した。このボールを弾丸となって追いかけたのは飯沼蓮。ゲームキャプテンは2試合連続でHO藤村琉士に預け、自身はみずからのパフォーマンスにのみ集中していた。
SH飯沼はキックを捕球した相手――明治大学入学時に4年生だったトヨタヴェルブリッツ(トヨタV)のFB髙橋汰地に、タックルを突き刺した。さらに立ち上がって脚をかき、相手を排除する。飯沼のハードワークで生まれたラックのスペースへ、ハーフ団を組む相棒、SOオテレ・ブラックが潜り込んでペナルティを誘った。
キャプテンの執念、一連のプレーが、チームの窮地を救った。
全18試合あるリーグ戦、その後半戦最初のゲームとなる第10節。今季2勝目を狙った浦安DRの士気は高く、試合前の練習からエナジーは満点。福島・Jヴィレッジスタジアムの青空に響く声は、ホスト浦安DRのものが目立った。
だが前半に見せ場が多かったのはビジターのトヨタVだ。
「今日は試合の入りからペナルティが連続してしまい、入りが悪かったです」(PR鍋島秀源)
前半1分にラック中央の急襲から先制トライ。4分後には浦安DRのペナルティからフォワードの圧力で2トライ目。前半11分には3連続トライ。こちらも自陣でのペナルティが痛恨だった。
前半だけで10回あったペナルティが痛手となり、またトヨタVの見事なディフェンスもあって、前半は21点差(0-21)で終わることになった。
ハーフタイム。チームは無得点に終わったアタックに修正をかけた。
「前半の20分から40分までのパフォーマンスはラインブレイクも多かったですし、良かったと思います。ハーフタイムでは、ラインブレイクを得点に変える部分でガマンし、トライを取り切ろう、というメッセージを発信しました。そこは上手く修正して後半は良いパフォーマンスが出せました」(グレイグ・レイドローHC)
そして後半がスタートした。
後半6分のスクラムではペナルティを誘った。「試合途中で修正をかける方法がハマりました」と振り返ったのはPR鍋島だ。個人練習をしているというタックルでも魅せる24歳、そして、この日リーグ通算50キャップに到達した竹内柊平ら、8人一体のスクラムでプレッシャーをかけた。
だが今季2勝目に賭ける思いは、1勝1分け7敗のトヨタVも同じ。
ペナルティをおかした浦安DRに対して、ラインアウトモールで襲いかかる。ここで浦安DRが反則でトライを防いだとしてLOローレンス・エラスマスにイエローカード。14人となり、さらにペナルティトライが与えられ、点差は『28』に広がってしまった。
28点差。試合はのこり30分。味方はイエローカードで14人になった。
試合を諦めたくなるような条件が揃っている。だが浦安DRには、ギブアップしない人間が揃っていた。リスタートのキックオフ前、50キャップ達成の竹内がチームに檄を飛ばした。
28点差からの逆襲が、はじまった。
絶妙なキックオフボールを掴んだのはFLトム・パーソンズ。14人のアタックマインドにスイッチが入った。飯沼蓮、オテレ・ブラックが左右にさばく。サム・ケレビが長い手足でダイナミックに突進。FB安田卓平がカミソリステップで相手を翻弄する。
ここで反則の繰り返しにより、トヨタVにイエローカード。果敢なアタックで14対14の状況を引き出すと、ゴール前で飯沼が左隅へロングパス。この日のチーム初得点を刻んだのは1年目で先発定着のWTBケレブ・カヴバティだ。さらにオテレ・ブラックが難しいゴールキックを通し、7点を返した。
そのわずか2分後だ。
自陣右のスクラム。ボールをワイドに運んでWTBカブバティまで回す。フォワードを当て、次のフェーズでCTBケレビが片手パス。ここでスピードも豊富なNO8ヴィーセが快走。最後は捨て身のパスで、フォローしていた飯沼が歓声を浴びながらトライゾーンへ。ゴール成功で14点差(14-28)となった。
まだトライを取れる。
15人には、リザーブには、首脳陣には――そして福島まで駆けつけたD-Rockersにもそんな確信があったろう。
自陣からアタック開始。途中出場したWTB石井魁のショートキックをふたたび獲得。CTBゲイツが左右のアタックに顔を出してゲインする。最後は竹内の十八番、ピック&ゴーからの左隅にスペースを察知したSH飯沼が突破。アタッキングハーフの面目躍如。コンバージョンも成功で7点差(21-28)とした。
後半20分にはアーリーエントリーのWTB松本壮馬がビッグタックル。会場を沸かせた。後半28分にはトヨタVがモールで押し込み、ウイングで5トライ目。リードを12点(21-33)に広げたが、浦安DRの勝利への執念は尽きなかった。
ラスト10分で点差は12点。ここでスクラムの反則から敵陣左へ入り、途中出場したHO金正奎のスローイングからラインアウトのアタック。同じく終盤投入されたSH橋本法史がケレビへ正確なロングパス。
突破するケレビと、フォローするゲイツ。
今季のトライパターンが炸裂し、5点差に詰め寄った。
その後風下の不利もあって自陣脱出に苦労し、ここからPG追加で8点差とされるが、終盤におなじくPGを返してふたたび5点差に。
観る者を熱くするシーソーゲーム。
リスタートのキックオフボールが79分40秒頃に宙を舞った。浦安DRが自陣からアタック開始。ホーンが鳴り響いた。その直後、5フェーズ目で浦安DRがオブストラクションの反則(ボールを持っていない相手プレーヤーを妨害する反則)。
前節に続き、浦安DRは、5点差(31-36)でノーサイドを迎えた。
悔やまれるのは試合開始直後の10分間。3トライ3ゴールの21失点だった。
「序盤で21点を許してしまい、自分たちで試合展開を難しくしてしまいました」と、レイドローHCは試合後に話した。
「その後は良いパフォーマンスを残せたと思います。スペースを見つけ、良いアタックができていました。しかし良い入りができず、試合を決定付けてしまったと思います」
ゲームキャプテンを務める容赦なきタックルマン、キャリーも迫力十分のHO藤村も「最初に3トライを取られると、どんなに良いチームでも勝てないと思うので、そこに尽きると思います」と語った。
試合の入りに課題は残った。それでも浦安DRの反撃、勝利への執念は、まぎれもなく価値あるものだった。
今季2度目のバイ・ウィーク(休養の週)を挟んで、心機一転、チームは第11節へと向かう。金曜夜(19時キックオフ)のホストゲーム。闘いの場は、今季初勝利の記憶が新しい、あの東京・秩父宮ラグビー場だ。