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2024-25シーズン 第9
5点差の激闘」

NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25シーズン 第9
◇浦安DR 3540 東京SG(2025223日・JIT リサイクルインクスタジアム)

美しい山脈に囲まれたすり鉢状の甲府盆地に、FL小嶋大士(こじま・だいし)は帰ってきた。

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雪冠をかぶった南アルプス、愛宕山、そして日本最高峰・富士山の頂き......。目に映るものすべてに愛着がある。入団後の動画インタビューで「山が見えなくてさみしいです」と語っていた日川高校、山梨学院大学出身のルーキーはこの日を待ち望んでいた。

「日川の先輩の蓮さん(SH飯沼キャプテン)とは、山梨での試合が決まった時から『楽しみだね』と話していました。この会場は山梨クリーンファイターズと試合をした大学4年のとき以来です。『いつも通り』と思っていましたが、楽しさが勝りました(笑)。本当に山梨が大好きなので」(小嶋)

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ディビジョン1D1)に今季初参戦している浦安D-Rocks(浦安DR)。その第9節で、日川高校の先輩でもあるSH飯沼キャプテン、山梨学院大学の同期であるWTBケレブ・カヴバティの3人と、チーム初の山梨開催で揃ってスタメン出場。地元で消防士になるつもりだった男は、この未来は「想像もしていませんでした」と嬉しそうに話した。
ビジターチームの一員として、FL小嶋は快晴に恵まれたピッチに足を踏み入れた。すると聞き覚えのある声の激励が聞こえてきた。日川高校の同級生たち。小中で一緒に野球をやっていた親友。会場には、家族もいる。自然と笑みがこぼれ、闘志が湧いてきた。

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メモリアルマッチの相手は、リーグ開幕年から3季連続で4強進出の強豪。332分の東京サントリーサンゴリアス(東京SG)だ。
対する浦安DRは、前節から先発5名を替えた。関西学院大学のWTB松本壮馬が初先発、FBルテル・ラウララ、リザーブのHO金正奎が今季初出場。スタンドオフには前節までフルバックだったオテレ・ブラックが入り、抜群のゲームメイクをみせた。

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ただピッチに最初に入ってきたゲームキャプテンは、地元山梨出身のSH飯沼主将ではない。日本大学の元キャプテンでもあるHO藤村琉士だ。この決定の背景には、同じスクラムハーフで主将だったグレイグ・レイドローHCの配慮があった。

「意図としては、レン(SH飯沼キャプテン)にもっと自由にプレーしてもらうためです。ときにキャプテンシーはプレーの幅を狭める要因になります。そういった影響が出ないようにという意図がありました。選手が自分の力を最大限に発揮できるかどうかが大事で、そのことはレンにも話をしました」(レイドローHC

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スコットランド代表76キャップを持つレイドローHCは、同代表史上最多の39試合でキャプテンを務めている。リーダーの重責は足枷になることがある。それをスコットランド代表で誰よりも感じてきた。

「またフジ(HO藤村)もチームのために戦ってくれる選手で、相手チームに対してリスペクトし過ぎず、自分たちに対してリスペクトを見せる選手。シーズンを通してリーダーとして身体を張って先頭に立ち、チームを率いてくれている存在だと思っています」(レイドローHC

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相手をリスペクトし過ぎないこと。
それはレイドローHCがたびたび口にしてきた言葉だ。対戦相手の東京SGは日本ラグビー史においてリスペクトにふさわしい実績、歴史を積み上げてきたチームだ。ただピッチの上では対等。この日の浦安DRは相手をリスペクトし過ぎず、常に果敢だった。

「前半の20分間はすごく良いアタックができていました」(HO藤村ゲームキャプテン)

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最初の敵陣アタックで、先制トライを獲った。
開始3分。ファーストスクラムから展開。山梨学院大学出身のWTBカヴバティが突破した。オフロードパスは通らなかったが、CTBシェーン・ゲイツがドリブルで転がし、トライエリアで押さえた。ビデオ判定の結果――トライが認定され、最高のスタートを切った。(70

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ディフェンスも快調だった。

「アグレッシブ・アタッキングラグビー」の旗を掲げる東京SG。その強烈なアタックに対してダブルタックル成功。すかさず絡みついたのはFL小嶋だ。「浦安D-Rocks7番といえば自分という存在になりたい」(FL小嶋)。そんな将来像に沿うようなチーム最初のスティールだった。

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さらに飯沼キャプテンが指揮官の期待にこたえる活躍をみせる。
東京SGがペナルティを重ね、敵陣に居座った。前半12分に反則のくりかえしで相手10番が一時退出。14人になると、4度目のゴール前アタックで飯沼キャプテンが左大外へロングキック。ここで確保してトライエリアに入ったのは、直前のプレーで倒れ込んでいたFBラウララ。

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浦安D-Rocks2連続トライ。さらに愛称「オーツ」のSOブラックが高難度のコンバージョンキックを決め、14点のリードを得た。

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だが東京SGも反撃。この日公式戦通算100試合出場を達成したSH流大(ゲーム)キャプテンが指揮するアタックで、シンビンでスタンドオフを欠きながらトライ(前半19分)。モールでもトライを獲られ、貯金がなくなり前半31分に同点(1414)に追いつかれた。

さらに前半終了間際、サンゴリアスのキャリアーが次々に突進。

火花が散るような激しい攻防。真っ向勝負で突っ込んでくる相手に対して、先発定着のPR鍋島秀源が突き刺さる。さらに肉弾戦を得意とするHO藤村がチームを鼓舞するビッグタックル。「口数は多くせずにプレーで引っ張る」と決めていたゲームキャプテンが守備を引っ張った。

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バックス陣の守備も激しい。SH飯沼キャプテンが左隅で相手を押し返した。SOブラックが的確なタックルで、相手を一撃ダウン。課題だった守備を克服したWTBカヴバティが低く身体を当て、押し戻す。
押し切ったのはサンゴリアスだ。前半40分にフォワードでねじ込み、勝ち越しの3本目。2114でサンゴリアスがリードして折り返したが、拮抗するだけのファイトは見せた。

「前半の20分間はすごく良いアタックでしたが、(前半の)残り20分は相手のペースになりました。ハーフタイムで切り替え、『ここからエンジンを上げて勝つ』というマインドで臨んだ後半、ディフェンスの時間は多かったですが、チーム全員が体を張ってくれていました」(HO藤村ゲームキャプテン)

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後半は、周到なプレーで逆襲した。
後半4分の敵陣スクラム。ボールを受けたWTBカヴバティが得意のステップ――これを囮として突進したのはCTBサム・ケレビ。今季初披露のサインプレーで、現役オーストラリア代表が後半最初の一撃を決めた。(2121

「『走り抜くこと』は持ち味なので(トライのシーンは)それをまっとうするだけでした」(CTBケレビ)

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CTBケレビにとって東京SGは古巣であり、リスペクトし過ぎることはない。むしろ「自分達から仕掛けて高い強度を設定し、相手に『ついてこい』というくらいのメンタリティが重要」(CTBケレビ)という意識でいる。
同点に追いついた浦安DRだが、後半13分にはモールで4本目を奪われる。2128。しかしそれまで相手の波状攻撃を再三防いでおり、相手に「モールを選ばせた」と表現してもよいのかもしれない。それだけの分厚い守備だった。
さらに1トライを失って14点ビハインドとなったが、誰もゲームを諦めない。
途中出場のプロップ2名(竹内柊平、セコナイア・ポレ)が入った相手陣スクラムで、攻守を入れ替えるペナルティ。ここからのセットプレーで、ふたたびCTBケレビが突進力を活かして4本目。またも7点差(2835)まで追撃した。

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さらに後半32分の勝負所。

これ以上離されると痛い場面で、相手14番がコーナーへ走った。ここで今季初先発の2人が粘る。FBラウララが追いつき、さらにWTB松本が相手を押し出しにかかる。ビデオ判定の結果、紙一重で被トライ。ただ執念を感じさせるディフェンスだった。(2840

またも引き離された。
だがメンバーもおそらく観客席も――誰も悲観していないように見える。アタックができれば獲れる。リスタートのキックオフへ向かうメンバーから、そんな自信が漲っているようだ。選手のシステムへの信頼をみてとれる。そして後半37分だった。
今季初出場したHO金正奎が内返しのパス。ここから竹内柊平が得意のボールキャリーで敵陣侵入。

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こちらも途中出場。SH橋本法史のパスアウトから、ラストのロングパスはリーグ通算51キャップ目となった安田卓平。左隅で問答無用のグース・ステップを決めたのはカヴバティ。4年間を過ごした甲府の青空の下、5本目を沈めた。(3540

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ブラックがここまで全成功となるコンバージョンキックを決め、ついに5点差。
残りは約130秒。リスタートの時間は3836秒。相手にボールを渡せない浦安DRは自陣からラストアタック開始。80分のホーン。CTBケレビを軸に左右でアタックを繰り出す。しかし最後はノックフォワード。

相手が蹴り出し、ノーサイド。

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敗戦を喫した。だが充実感があることも事実だ。ディフェンスで奮戦し、アタックをすれば高確率でトライをした。スコアボードには3540の数字。浦安DRは、チーム史上初めてD1でボーナスポイント(7点差以内に与えられる勝点1点)を獲得した。
チームは正しい方向に進んでいる。そう感じさせるのに十分な5点差の激闘。観る者を熱くさせる"山梨合戦"だった

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観客席にいた地元の高校ラガーも圧倒された様子だった。その一人が、甲府工業ラグビー部のNO8小尾歩夢キャプテン。山梨・甲府工業は、元日本代表の浅原拓真アシスタントコーチの出身校だ。

「初めてトップのリーグ(リーグワン)を観戦しましたが、真似できないプレーや、迫力が凄かったです」(甲府工業・小尾キャプテン)

感激した様子の小尾キャプテンはまた、OBの浅原コーチに「僕たちに経験してきたことを教えてほしいです」とラブコールも送った。
初の山梨開催で繰り広げられた熱戦で、熱い思いを抱いたのは高校生ばかりではなかった。指揮官のレイドローHCも「感銘を受けた」と話した。

「今日はアタック力の向上が見られ、とても満足しています。ですが重要な局面で自分たちの求めている結果を得ることができず、それがこの結果に繋がりました。そこは引き続き、課題として直していきたいところです」

「ただ、きょう選手たちが見せてくれた努力、80分間立ち向かっていった姿には感銘を受けました」(レイドローHC

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着実に、確実に、成長している。

2勝目を狙う次節は、今季2度目の福島開催。舞台はJヴィレッジスタジアム。対峙する相手は11位(171分)のトヨタヴェルブリッツだ。

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[i] LOヴィンピー・ファンデルヴァルト/FLトム・パーソンズ/NO8トゥクフカトネ/WTB松本壮馬/FBルテル・ラウララ