GAMEゲーム
レポート
REPORTレポート
2024-25シーズン開幕節「嵐の開幕戦」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2024-25シーズン開幕節
◇浦安DR 19-31 相模原DB(2024年12月22日@神奈川・相模原ギオンスタジアム)
スタジアムの大型ビジョン側から冷たい強風が吹きつける。ここは神奈川県相模原市の相模原ギオンスタジアム。浦安D-Rocks(浦安DR)が、初のディビジョン1(D1)初戦の歴史を刻む舞台だ。試合前のピッチでは、ゲームメイクを担うSH飯沼蓮主将、SOオテレ・ブラックがキック練習に勤しむ。強風の具合をチェックしているようだ。
浦安DRが3季目で辿り着いたリーグ最高峰のD1は、昨季より過酷になった。
リーグ戦は昨季から2試合増の計18試合に。チームとしての総合力がより求められる。一方で、優勝を決めるプレーオフ進出枠は2枠増の「上位6チーム」に。チャンスは広がった。
ただD1昇格初年度に6位以上になったチームは過去にない。大きな理由の一つはコリジョン(衝突)局面の強度差。下位ディビジョンで通用していたプレーが通用しない、ボールキャリアーの破壊力が違う――。過去の昇格チームは苦戦を強いられてきた。
それでも浦安DRは今季、トップ6をターゲットに据える。過去に類がないことはチャレンジしない理由にはならない。むしろ過去に類がないことに向かっていく。それが浦安DRの在り方だ。
待ちに待った選手入場。スタジアムは地域に根付くホスト・三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)のチームカラー、緑が目立っている。
そこへ現れたイエローのオルタネイト(ビジター)ジャージに身を包んだビジターチーム。この日チームデビューを飾った先発2名(LOヘルウヴェ、NO8ツイヘンドリック)。そしてリザーブのルーキー松下潤一郎、ヤスパー・ヴィーセ、橋本法史の姿もある。
「前半は風下のなかでよく戦ってくれました」(グレイグ・レイドローHC)
一般的に風下のセオリーは、ボールを保持すること。不用意にボールを渡してしまえば、大きく蹴り返されてエリアを失う可能性がある。浦安DRはFBイズラエル・フォラウら強力ランナーが押し込み、コンテスト(争奪)キックも活用し、風下ながら辛抱強くエリアを獲った。
序盤戦は5本のペナルティゴール(PG)が決まるPG合戦。相模原DBが3本、浦安DRが2本。記念すべきD1初得点は前半13分、SOオテレ・ブラックの右足による3点だった。
肝心のコリジョン(衝突)局面はどうか――。相手は大型のフォワードが脅威。だから、新指揮官のグレイグ・レイドローHCはこの日、リザーブに通常より1人多い6人のフォワード選手を揃えた。
「(フォワードのリザーブ6人体制は)ダイナボアーズさんの一番の脅威であるフォワードに対する対策でした。6人体制はプレシーズンから練習していて、後半に(南アフリカ代表の)ヤスパー・ヴィーセのような選手を入れる、という利点もみられたと思います」(レイドローHC)
前半22分。相模原DBがラインアウトから次々に大型フォワードを当てる。HO藤村琉士が弾丸タックル。LOローレンス・エラスマスが相手をスローダウン。長身ながらFL大椙慎也はロータックルを繰り出す。
その後ペナルティで自陣ゴール前のピンチを迎えた。が、新加入LOヘルウヴェのタックルからターンオーバーを起こした。
昇格チームの浦安DRが、コリジョン局面で、負けない強さをみせている。
そして待っていたD1初トライは前半31分だ。
この日D1チーム相手に通用した部分のひとつとしてSH飯沼主将は「セットプレー」を挙げた。前半30分、相手FWが一人少ない条件ながらスクラムで反則誘発した。
前進して、敵陣ラインアウトの好機。武器のモールで前進。元日本代表のツイヘンドリックがゴール前に迫る。ここで安全策の近場勝負ではなく、SH飯沼主将がパスアウト。CTBサム・ケレビ、SOオテレ・ブラック、WTB安田卓平が短いパスをつなぎ、大外で待っていたのは天性のフィニッシャー石井魁。
このトライで浦安DRは11-9とリードして折り返した。相手指揮官のグレン・ディレーニーHCとSH岩村昂太主将は試合後、風上ながらビハインドになった前半について、予想外だった、と声を揃えた。
だが後半、まさか、の事態が起こる。
出だしは好調だった。この日手応えを掴んだスクラムで、後半7分に相手ボールをターンオーバー。局面を一変させるスペシャルなスクラムワークを魅せた。ここで「プレー選択の判断は選手に任せている」(レイドローHC)というチームは、ゴール前でPG選択。3点を加えて14-9とした。
しかし直後の後半11分に相模原DBがこの日初トライ。浦安DRのペナルティ(オブストラクション)が端緒となり、同点(14-14)に追いつかれた。
「前後半で、かなり展開が違いました。前半は風下のなかでよく戦いましたが、後半は規律の乱れから自分たちから崩れてしまいました」(レイドローHC)
さらに59分、相手がキックリターンから中盤で攻撃開始。相手がトライを決めるなか、先発SOブラックの怪我で前半途中出場していたSO田村熙が、タックル時の衝撃でダウン。
2人のスタンドオフ(ブラック、田村)が同じ試合で負傷退場する、という稀な出来事が、初のD1開幕戦で起きてしまった。
「10番の選手が2名怪我をしたのはかなり不運でした。この先、ラグビーの神様が良い運をもってきてくれることを願います」(レイドローHC)
そして、この日のリザーブはFWが6人の体制。スタンドオフもできるWTB安田が10番の位置へ。負傷退場の田村に替わって後半21分、スクラムハーフが本職の橋本法史がウイングの位置に入った。
5点ビハインド(14-19)の浦安DR。応急対応の布陣となったが、粘り続ける。途中出場でチームデビューした現役南アフリカ代表・ヴィーセ。64分に相手2番のトライ寸前に豪腕をねじ込み、抱え、トライを防ぐ。ワールドクラスのスキル、パワー、勝負観。
しかし後半29分にD1は3季目の相模原DBが流石のアタックで追加点のトライ。同33分には手薄の裏スペースを突かれて2連続トライを浴びる。
相手リードは17点(14-31)に拡大。さらに最終盤の後半36分にはノーバインドタックルでシンビンに。敗色は濃厚となった。
「前半は良いファイトができましたが、後半リードされた時、すこし接点で引いてしまったり、焦りからペナルティをしたことが響きました」(SH飯沼主将)
だが、フルタイムのホーンが鳴った後、14人の浦安DRが一撃を繰り出す。
エリア中盤の自軍スクラム。途中出場の3人(HO松下潤一郎、PR石田楽人、PRセコナイア・ポレ)を最前線にして7人でボールを配球。まずFBフォラウが左隅でゲイン。
プレーがミスで終われば試合終了のラストアタック。
フルタイム出場になったSH飯沼主将が、ミスのないアタックを牽引する。武内慎、ヴィーセが的確なコース&パワーで前進。ペナルティからの速攻で、最後は急遽スタンドオフを務めた安田からCTBシェーン・ゲイツへ高速パス。
まさかの事態に見舞われた嵐のような開幕戦を、14人によるトライで、締めくくってみせた。
「いつも通りアタックすれば、後半の(最後のトライの)ように獲りきる力はあります。タレントも揃っているので、いつも通りにプレーすれば通用することは分かりました。試合は続くので、一戦一戦成長していきたいと思います」(SH飯沼主将)
初参戦したD1初戦は黒星スタートだ。
だが、ディビジョン2残留を経験した浦安DRは「負け」の価値を知っている。
負けを負けで終わらせなかったからこそ、今、この舞台で戦えている。
次戦となるD1第2節は12月28日(土)。舞台は九州の火の国・熊本の「えがお健康スタジアム」。白星スタートした静岡ブルーレヴズとの一戦で、待望のD1初勝利を奪い取る。