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2023-24シーズン入替戦第2節「新たな頂へ」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2023-24入替戦第2節
◇浦安DR 35-30 花園L(2024年5月24日@東大阪市花園ラグビー場)
日中は全国100地点で真夏日を観測。今年一番の暑さを記録し、東京は31度で今年初の真夏日を記録した。しかし夜7時のキックオフを目前に控えた決戦の地「東大阪市花園ラグビー場」、その大型ビジョン側から吹きつける夜風は涼しかった。
NTTジャパンラグビーリーグワン2023-24。
入替戦第2戦。
第1節を9点差(21-12)で勝利したディビジョン2(D2)の浦安D-Rocks(浦安DR)は、引き分け以上でも悲願のディビジョン1(D1)昇格が決まる状況をつくり、敵地での金曜ナイターに乗り込んだ。
第1節からのスタメン変更はゼロなら、先週から戦い方なども「変えなかった」(SO田村熙)。1年間の集大成ともいえる一大決戦で、特別なことは用意しなかった。
ホストは大阪の地で楕円史を紡いできた1929年創部の花園近鉄ライナーズ(花園L)。浦安DRはビジターだったが、入場時はラグビー文化が根付く大阪、ライナーズのパッセンジャー(花園Lファンの愛称)から温かい拍手が送られた。
そしてバックスタンドをみて左側、浦安DR陣地からは、D-Rockersからの声援が。ビジターゲームを感じさせない頼もしい応援が、聖地の夜空に響いていた。
その衝撃は、開始54秒で起こった。
花園LのSHウィル・ゲニアがラインアウトの持ち出しから突破。そのまま先制トライを奪われたのだ。さらに自陣反則でペナルティゴール(PG)を追加され、花園Lが前半10分に3失点。0-10とリードされた。
つまり開始10分で、第1戦のアドバンテージ9点はなくなった。逆に、2戦合計で1点のビハインドを背負う展開となった。
「ビジターゲームということもあり、少し硬い入りになりました」(SH飯沼蓮主将)
浦安DRもすぐ反撃に出る。風上の有利も味方につけながら前半12分、敵陣22mに入った。モールを押し込もうとするが、止められる。しかし武器は一つではない。まずはCTBサム・ケレビの突進から波状攻撃を仕掛ける。
そして右隅でWTBリサラシオシファが1対1。ギリギリのオフロードパスを受けたFB安田卓平が右隅にグラウンディング成功。一瞬笑顔を見せたFB安田だが、すぐ表情は締まった。まずは5点だ。
さらに前半17分、CTBケレビがインゴールへ絶妙キック。グラウンディングをめぐり両軍11番(花園L・片岡涼亮/浦安DR・WTB石井魁)が競り合う。しかし、ここはTMOの結果ノートライ。
ナイター照明の下、息を呑む攻防戦が繰り広げられる。前半はお互いにPGを一本ずつ決め合い、花園Lリードの8-13で後半へ向かった。
このままではディビジョン2(D2)残留か――。そんな危機感が募ったのは後半11分の花園Lのトライだ。
浦安DR陣ゴール前で相手SOクウェイド・クーパーがショートキック。これを獲得されてゴール下を奪われた。その後お互いにPGを決め合い、後半17分になっても相手リードは12点(11-23)。第1戦の9点リードを足しても3点のビハインドだ。
ターニングポイントの一つは、そんな状況での後半17分の決断だっただろう。
花園Lが自陣中央付近でペナルティ。12点を追う浦安DRは、ペナルティゴールで点差を縮める選択肢もある。ボールを手にしたSH飯沼主将。仲間に視線を投げた。FB安田がタッチラインを指さす。途中出場のオテレ・ブラックも何事かをつぶやいた。飯沼主将が頷いた。
逃げ切ることはしない。攻めよう。
「序盤はミスを恐れているように見えました。そのこともあってハーフタイムは『攻める意識でいこう、ミスを恐れず、結果を恐れずに攻めていこう』という話をしました」(ヨハン・アッカーマンHC)
「(タッチでラインアウト選択の場面は)やっぱり自分たちは逃げ切るのではなく、『勝ちにいく』というところと、今シーズンはモールにすごく自信があったので選びました」(SH飯沼主将)
結果は吉と出る。
ラインアウトモールで勝負。相手が反則を重ねるなか、途中出場のPR鍋島秀源がインゴールへ。ここはノックオン判定となったが、相手が反則でトライを防いだとしてペナルティトライ(7点)。イエローカードも出て数的優位に立ったのだ。
しかし、ここから相手が強烈な逆襲に出る。
浦安DR陣に居座り、14人で何度もディフェンスをこじ開けにくる。後半25分の厳しい時間帯。しかし夜空にこだまする「D-Rocks」コールの中、浦安DRは一枚岩の守備で、逆に相手を押し戻した。
もう一つのターニングポイントは、その直後、自陣スクラムの展開からだ。
ボールを受けたFB安田が風下から蹴り返す。捕球した相手が蹴り返そうとする。ここで途中出場のPR竹内柊平がキックチャージ。大歓声。こぼれたボールを手にしたのは、同じく献身的に前にキックチェイスをしていたNO8タイラー・ポールだった。
「自分たちのゴールラインからディフェンスで相手をどんどん押し返した瞬間や、キックチェイスからチャージ、トライにつながった瞬間など、そうしたカギとなる瞬間を自分たちのモノにしました」(アッカーマンHC)
華麗なプレーは観客を魅了する。だが、運命の入替戦での決定的なトライは、地味で目立たぬ、しかし大切なプレーから生まれた。ボールを蹴り返そうとする相手プレイヤーに向かい、弾道に向かって手を伸ばす「キックチャージ」。そして味方のキックを追いかける地道な「キックチェイス」。
この2つの下働きでこぼれたボールを、浦安D-Rocksのスタイルを体現する一人、ハードワーカーのNO8タイラー・ポールが拾ったのはおそらく偶然ではなかった。
敵陣ゴール下で、タイラー・ポールが興奮を爆発させる。歓喜の輪が生まれる。
オテレ・ブラックのゴール成功で、浦安DRはついにこの日初めてリード(25-23)を奪った。
さらに後半33分にダメ押しの4本目を決めたのは、同じく全力プレーで魅せるCTBシェーン・ゲイツだった。さらに後半37分のPG成功でリードは12点(35-23)。
勝敗は、ぼぼ決した。
「最後はクラブとして勝ち切れました」(SO田村熙)
試合後にそう語った新加入のSO田村熙。加入当時のチームの率直な印象は「良い時は良いけどダメな時は全然立ち戻ってこられない」だった。東京サンゴリアス同僚で、同じく今季加入のサム・ケレビと「言い続けよう」と決めた。
チームも昨季の入替戦敗北と向き合った。課題の規律を高めて、レギュラーシーズンは「フェアプレーチーム賞」を初受賞。弱い自分たちと向き合う強さが、浦安DRをさらに強くした。指揮官は今季を振り返って言った。
「今シーズンは、昨シーズンに足りなかった問題解決能力を作っていくというマインドを持って、もっと団結して、もっとカルチャーを作っていこうとスタートしました」
「すでに基盤が作られた状態だったので、お互いが支え合うなど、カルチャーも育ち始めたと思います。開幕戦でNECグリーンロケッツ東葛さんに負けたことも、プレッシャーを掛けられた時の対処の学びになりました。シーズンを通して、チームのために戦う『チーム力』というものが付いたことが大きかったと思います」(アッカーマンHC)
東大阪市花園ラグビー場に鳴り響いたノーサイドの笛。
最終スコアは35-30。
悲願のディビジョン1昇格を、成し遂げた。
昨季の敗北だけではない。一昨季、この花園ラグビー場に苦い記憶のある者も少なくなかった。SH飯沼主将もその一人だった。
「入団してから入替戦に2戦負けて、人生のドン底を経験しました。それでも折れずに、この経験があるからこそ成功できる、ということだけを信じてやってきました」
「いま、報われて嬉しい気持ちですが、僕の目標はここじゃないので。この先は個人だと代表、ディビジョン1で優勝するところまでいってから、この2年間の苦しみが報われたと思えるはずなので、そのために努力していきたいと思います」
そこまで言って、嵐のようなシーズンを乗り越えた主将は最後、「でも去年よりは嬉しい気持ちです」と言って、ようやく厳しかった表情を綻ばせた。
試合後にはセレモニーが行われ、ディビジョン1昇格決定のボードの前で記念撮影。清々しい笑顔が並んだ。
セレモニーが終わると、記念Tシャツを着た浦安D-Rocksメンバーが出てきた。真っ先に駆けてきたのは笑顔の金正奎だ。夜9時過ぎの花園に「D-Rocks」コールが響いていた。
「今日、チームが発揮してくれた成果と努力を、誇りに思います。これは今日戦った23名だけでなく、チーム全体の勝利だと思っています。メンバーやマネジメントの方々、フロント、スタッフ、ファンの方々も含めて、本当にチーム全体のことを誇りに思います」(アッカーマンHC)
昇格が決まったノーサイドの笛が鳴った後のことだった。
念願成就、悲願達成の瞬間のはずだったが――、ピッチ上の浦安D-Rocksメンバーに歓喜がなかった。静かに円陣を組み、主将の言葉に耳を傾けていた。すでにチームは新たなスタートラインに立っているようだった。
来季、浦安D-Rocksの創造の旅が、いよいよ始まる。
ディビジョン1参戦。
そして、さらに、その先へ。