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2023-24シーズン入替戦第1節「あと、ひとつ」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2023-24シ入替戦第1節
◇浦安DR 21-12 花園L(2024年5月18日@スピアーズえどりくフィールド)
待ちわびた決戦の日は暑かった。
最高気温28度。夏を感じさせる5月中旬の青空に、D-Rockers(ディー・ロッカーズ)の大声援が響いている。今季最高と思えるホストゲームの熱量。メインスタンドもバックスタンドも満席模様。片側の芝生席はシート等で埋め尽くされている。
試合開始約30分前。熱い日射しの向こう側、緑のピッチで浦安D-Rocks(浦安DR)と花園近鉄ライナーズ(花園L)が左右に分かれて練習を始めた。バックスタンド側から吹いてくる風は左右に振れ、どちらが風上か分からない。
2023-24シーズン入替戦第1節。
この1年間、狙いを定め、もう一度辿り着いた場所。
ホスト&ビジターの入替戦2試合で上回れば、浦安DRがチーム創設2年目で悲願のディビジョン1(D1)昇格を手にする。しかし下回れば、昨季とおなじく花園LがD1残留し、浦安DRは来季もディビジョン2(D2)で戦うことになる。
運命の入替戦ファースト・ラウンド。
浦安DRの先発は4名が替わった。攻守に激しいHOフランコ・マレー、今季主軸に成長したFLブロディ・マカスケル、ユーティリティ性に溢れるFB安田卓平、そして第9節以来のメンバー入りとなったオーストラリア代表CTBサム・ケレビ。リザーブでは繁松哲大が第2節以来のメンバー入りを果たした。
観客5,004人が見守る大一番は、意外な展開から始まった。開始直後のプレーがビデオ判定にかかりプレー中断。長いレギュラーシーズンでも、まず見ない光景だ。
そこで浦安DRの反則が認められると、連続のペナルティで自陣22mまで後退した。ここで今季中盤から司令塔に定着したSO田村熙は、冷静だった。
「最初の流れは『入替戦ならこういうこともあるだろうな』という入りでした」(SO田村熙)
田村自身、入替戦は初めての経験だが「(入替戦は)僕のイメージではトップ4のプレーオフとやることは変わらないという印象」。想定外が起きるのは想定内だった。
4連続のペナルティで自陣ゴールラインを背負った浦安DRだが、前半5分、昨季後手を踏んだスクラム(相手投入)で手応えを掴む。さらにFLマカスケルらが花園Lの強力ランナーを再三止め、インゴールを死守した。
1年前とは違うスクラム。
1年前とは違うディフェンス。
前半10分に左サイドを大型ランナーに攻略されて花園Lが先制トライ。だが、慌てなかった。11分40秒に特大のロングキックで魅せたのは、冷静沈着なSO田村。自軍投入ラインアウトを呼び込む「50:22」を決めた。
このチャンスで、プレシーズンから磨きをかけてきた武器で勝負した。
8人一体の"モール"で、じわりじわりと前進する。そして先発を託されたHOマレーがグラウンディング成功。
トライ後に流れる米ロックバンド「KISS」の「Rock And Roll All Nite」に合わせ大きな手拍子が巻き起こる。SO田村の逆転コンバージョンが決まると、ボルテージはまだ一段上がった。
だが落とし穴もあった。
「みんな気合いが入りすぎてペナルティが多くなりました」(SH飯沼蓮主将)
今季は規律が乱れた昨季入替戦の反省を活かし、規律意識の向上に取り組んできた。そしてレギュラーシーズン終了後、反則数やカード枚数が少ないチームに贈られる「フェアプレーチーム賞」を初受賞。ただこの日のペナルティ数は、相手より6回多い15回にのぼった。
この課題となったペナルティから自陣ゴール前に下がると、前半25分にFW戦から逆転トライを奪われ、前半は5点ビハインド(7-12)で折り返すことに。だが浦安DRは逆襲の爪を研いでいた。全員が理解していた――。
勝負は後半だ。
「前半で相手を疲れさせ、後半で勝とうというプランでした」(PR竹内柊平)
「熱いなかで走り勝てるか。後半勝負だと思っていました」(SH飯沼主将)
後半開始早々、花園Lがジャッカルを決める。浦安DRは自陣ゴール前に下がったが、このラインアウトで前半から狙っていたスティール成功。すると後半7分だった。
エリア中盤で右展開。ボールを受けたFLブロディ・マカスケルがパスダミーから右隅でゲイン。フォローしたWTB石井魁が伸びやかにゲインすると、1対1を外で振り切って歓喜の同点トライ。江戸川の空が、歓声で満ちた。
WTB石井にとって花園Lの向井昭吾HCは東海大学の先輩であり大学時代に指導を受けた間柄。FLマカスケルにとっても向井HCはコカ・コーラ時代の恩師。相手とも縁のある2人が同点トライに絡んだ。
その花園Lも再三ゴールラインを背負いながら、浦安DRの連続攻撃を止め続けた。粘りに粘って、浦安DRはエリア脱出を許す。
展開は膠着。浦安DRは大きくゲインしながら反則で後退する場面もあった。暑い中でエリアを一進一退――。どちらに主導権があるか分からない、空白のような時間が流れていく。ただプレイヤーの意志は、明確だった。
「今日はいろいろな流れがありましたが、昨シーズンと違い、それに影響されず、一貫性をもって目の前のプレーに集中することを意識してやってきました。今日も苦しいシーンはありましたが、誰一人焦らず、弱気にならず、怖がらずにチームの全員がコネクトして、自分たちを信じてやったことで、この結果を得られたと思っています」(SH飯沼主将)
そしてチームで崩し、チームで獲ったトライが生まれる。
後半28分。敵陣スクラムから13次攻撃を重ねた。SH飯沼主将がパスアウト。15番先発の安田が得意のショートステップで切り裂き、ラストパスを途中出場のビッグヒッター、サミソニ・トゥアへ。
右中間のインゴールを、奪った。
全員で獲ったチーム3本目。浦安DRは一枚岩でそのまま最後まで走り続け、9点リード(21-12)でノーサイドを迎えた。リベンジの第一段階を達成。浦安D-Rocksが運命の入替戦ファースト・ラウンドを、9点差でモノにした。
「今年1年は本当に味わったことがないくらいきついシーズンでした。ウィークポイントだったスクラムを見直して、今日にフォーカスしてやってきて、それが出たのが今日の全てだったと思います」(PR竹内)
第1戦で先勝して勝点4を手にした浦安DR。次戦は7点差以内の敗戦でもボーナス1点追加で昇格が決まる、有利な状況となった。
「選手たちが見せてくれた闘志を誇りに思っています。自分たちが勢いを失う場面においても、プレッシャーを乗り越え、ディフェンスでガマン強く守り抜いたり、ファイトする姿勢がありました。選手たちに感謝したいと思います」(ヨハン・アッカーマンHC)
昨季のディビジョン2(D2)残留から、「入替戦」という一点に絞ってチームを再興してきた。そしてファースト・ラウンド勝利という一つ目の階段を上った。「新チーム」が「真に強いチーム」になるプロセスを痛みと共に体感した、この経験は、誰にも奪えない自信になっただろう。
しかし得失点差はわずか9点だ。
「まだ1試合残っています。ライナーズさんはクオリティーの高い、良いチームです。私たちには、同じことを再現しなければならないチャレンジが待ち構えています」(アッカーマンHC)
「目標を達成したわけではありません。もう一回成長して、次に向けて準備したいです」(SH飯沼主将)
決戦の舞台は、1年前(2023年5月13日)にD2残留が決まった東大阪市花園ラグビー場。5月24日の金曜ナイターで運命は決する。
あと、ひとつだ。