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2023-24シーズン第10節「接戦がもたらす証明」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2023-24シーズン第10節
◇浦安DR 31-28 GR東葛(2024年3月30日@宮城・ユアテックスタジアム仙台)
温暖な気候に清潔なフットボールスタジアム。この上ない観戦環境のなか、しかし試合開始直前、ウォーミングアップは和やかではなかった。箱形のスタジアムに反響する両軍選手、コーチの声には緊張感があった。
全10試合のレギュラーラウンド最終第10節。
ここで勝てば、ディビジョン2の最終順位が決まる順位決定戦(2試合)へ向けて、首位通過となる。負ければ、首位を譲りわたして2位。
重要な最終第10節。8勝1敗で首位の浦安D-Rocks(浦安DR)は、宮城県仙台市で、同じく8勝1敗の強敵を迎えた。
浦安DRの2023―24シーズンは、敗戦から始まっている。開幕戦で3点差(28-31)のままノーサイド。これが創設2年目のチームにとって、レギュラーシーズンで初めての黒星だった。
相手はNECグリーンロケッツ東葛(GR東葛)。昨季までディビジョン1に2季在籍していた強豪だ。
第9節からは先発7名を変更[i]。PR鍋島は今季初先発、FBイズラエル・フォラウは今季初出場・初先発を飾り、この日リザーブの3名(金正奎、オテレ・ブラック、ラリー・スルンガ)は第4節以来の出場を果たした。
ヨハン・アッカーマンHCとSH飯沼蓮主将は「良い立ち上がりだった」と声を揃えた。
衝撃の先制点は開始3分だ。絶好調のSO田村熙が高いハイパントをあげる。チェイスしていたFBフォラウが再獲得。豪快なストライドで独走トライ。「田村のキック」×「フォラウのラン」の合わせ技で機先を制した。
そのフォラウが試合後に語った課題は「エッジ(エリア大外)のディフェンス」。ここを攻略するなどしたGR東葛が、ペナルティゴール(PG、前半7分)と2連続トライ(前半15、19分)で逆転。浦安DRは10点ビハインド(5-15)を背負った。
しかし、崩れなかった。
「相手にリードされた後もパニックせず、慌てず、3点を取るときは取り、攻めに行くときは攻めることができていました」(アッカーマンHC)
想定外のときに人は突発的な行動に出やすくなる。そんな時こそ全員でコネクトする、何を修正するのかを全員で把握し、再スタートを切る。そんな作業を練習から繰り返してきた。
「練習中から上手くいかない時こそしっかりコネクトして、一人ひとりが振り返って『どこを修正するのか』を確認してきました。そこはシーズンを通してやってきたので、それを今日もやりました」(SH飯沼主将)
序盤でLO小島佑太、FLジェームス・ムーアが負傷交替になるアクシデントがあった。その上での10点ビハインドだったが、見事にカムバックした。
敵陣で好機を迎え、カウンター攻撃から6フェーズを重ねる。ここから相手反則で、前半27分、武器のラインアウトモールが炸裂した。スコアは好調のFLブロディ・マカスケル。コンバージョン成功。3点差(12-15)に詰めた。
さらにお互いにPGを決め合った前半39分。背番号15の剛脚が光を放つ。
中盤スクラムから、右大外でFBフォラウを走らせる。元オーストラリア代表、現役トンガ代表の世界的スターが相手バックスを振り切る。内返しのパスでCTBシェーン・ゲイツが逆転トライ。華麗な一撃で4点リード(22-18)を奪い、試合を折り返した。
ところが後半開始から20分後のスコアは、また別の様相を呈していた。
25-28。再逆転を許した浦安DRは3点を追いかけていた。GR東葛にPG一本と1トライを決められたのだ。
まさに首位攻防戦。しびれる大接戦に会場のボルテージが終盤へ向けて上がっていく。観客席のあちこちからホスト浦安DRへ声援が飛ぶ。この土壇場で、堅実な仕事を果たしたのが2人のフッカー、そしてラインアウトのサインを決める「コーラー」だった。
「(先発HOフランコ・)マレーと途中出場のショックス(金正奎の愛称)、そしてサインをコールする進護(LO中島)のおかげで良いラインアウトでした。特に最後の20分、正念場では素晴らしいパフォーマンスをみせてくれました」
GR東葛はこの日、ラインアウトのディフェンスで、昨季まで浦安DR在籍のLOサム・ジェフリーズを再三飛ばした。しかし浦安DRフッカーが投入するボールは、身長200センチが伸ばす両手の上を、ことごとく越えた。
後半20分以降で7本あった自軍投入ラインアウトは、すべて成功。
安定したラインアウトを土台とした上で、敵陣でモール攻撃などを繰り返した浦安DR。SO田村が2本のPG(後半27、37分)を決め、最終盤でついに逆転(31-28)に成功した。
勝負を決定付けたラストプレーはラインアウトだった。
最終盤、第4節以来の出場となったラリー・スルンガが、自陣ディフェンスでジャッカル。ここから自軍投入ラインアウトを手に入れた。ボールを確保して蹴り出せば、勝利が手に入る。
79分50秒。
ボールを投げ入れるスローワーは、こちらも第4節以来、負傷からの復帰となった金正奎。フランカーから転向した努力家の投げ入れたボールは、元チームメイトのサム・ジェフリーズが伸ばした手、指先をかすめるようにしてコーラーの中島進護の両手に収まった。
ボール確保。SH飯沼主将が蹴り出してノーサイド。安定感あるセットプレー、武器のモールとタレントが噛み合い、開幕戦の雪辱を果たした。
接戦によってもたらされたのは、確かな実力の証明だった。
「結果に安心していますし、勝てたことに満足しています。しかし課題は残っています。序盤は良い立ち上がりでしたが、そこからセットピース、ラインアウトのミスがいくつかあり、相手に勢いを与えてしまいました。ただそこからミスを修正し、セットピースも良くなり、良い展開に持ち込めたと思います」(アッカーマンHC)
2季連続のレギュラーラウンド首位通過が決定した。
そしてチームはD2の最終順位が決着する重大な2試合、3週間後の順位決定戦へと向かう。
この2試合で連勝すれば、2年連続のD2王者としてディビジョン1(D1)の12位(最下位)チームと入替戦をたたかう。しかし2位になれば入替戦の相手はD1の11位チーム、3位なら10位チーム、とハードルは上がってしまう。
まさに運命を左右しかねない順位決定戦の第1戦は、4月20日土曜日。千葉・ゼットエーオリプリスタジアムで、豊田自動織機シャトルズ愛知を迎え撃つ。
[i] PR石田楽人/HOフランコ・マレー/PR鍋島秀源/NO8タイラー・ポール/SH飯沼蓮/SO田村煕/FBイズラエル ・フォラウ