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2023-24シーズン第5節「ダービーマッチ」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2023-24シーズン第5節
◇浦安DR 45-15 RH大阪(2024年2月3日@東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場)
ダービーマッチ――。
本来は同じ地域を拠点とする2チームの試合を指す。イングランド中部の町「ダービー」で開催された、町内2チームによるフットボールの試合に由来するという。現在は様々な共通点から対抗意識を持つ2チームの闘いも「〇〇ダービー」と呼ばれている。
3年目のリーグワンで、初となる「NTTダービー」だった。
2022年のリーグ元年は、試合中止により実現しなかった。しかし3年目の今季、ついにNTTジャパンラグビーリーグワンのディビジョン2(D2)第5節で、NTTグループ同士、創設2年目の浦安D-Rocks(浦安DR)と、レッドハリケーンズ大阪(RH大阪)の対決が実現した。
NTTグループには、楕円球を通じた交感が根付いている。
1977年、グループ内のラグビーチームによる「NTTラグビー全国大会」が初めて開催された。
以後全国からグループチームが定例的に集い、共に楕円球を追い、親交を深めてきた。かつての大会開催地を振り返ると北海道、岩手、愛媛と広範にわたる。「昔は泊まりがけだったんですよ」と、OBはより大規模だった時代を懐かしむ。
その全国大会にも華を添えてきた、実力チーム同士による対決が「NTTダービー」。
今回は浦安DRのトップパートナー日本航空株式会社様の協賛で、「JALドリームスカイマッチ2024」として一層華やかに催され、試合内容は今回も、見応え十分だった。
浦安DRはこの日スタメン5人[i]を変更していた。PR金廉をのぞいてPR坂和樹、HOサミソニ・アサエリ、FLジェームス・ムーア、CTBシェーン・ゲイツの4人が初先発。
リザーブからはHOセコナイア・ポレ、PR柳川正秀、WTBリサラ シオシファが今季初出場。HOポレとPR柳川は後半のスクラム圧倒に貢献し、京都・花園大学卒のWTBリサラ シオシファはトライを記録した。
ダービーマッチはRH大阪のトライから幕を明けた。
浦安DRが自陣守備で反則。アドバンテージとなりキック選択。バウンドしたボールが前半4分、RH大阪のSOブライス・ヘガティの懐へ入った。
前半6分にはキックから出ていたボールを奪ったRH大阪が、連続トライのチャンス。ここは新加入のLOリーヴァイ・ダグラスが緊急対応のタックルで防ぎ、難を逃れた。
ビジターのRH大阪は「ブレイクダウン」と呼ばれるボール争奪局面で、浦安DRを押し込んだ。RH大阪の杉下暢キャプテンは「コリジョン(衝突)でしっかり戦えている」という実感を得ていた。
「われわれはフィジカルが強い選手は多くありませんが、ラグビーはマインドセットひとつで変わる、と思っています。『激しくいくことはできるよ』という話はチームにしっかりと伝えています」
浦安DR、反撃のトライは9分40秒からだ。
新加入のFB田村熙がキックカウンターを選択。PR金廉がパワフルなクリーンアウト。綺麗に出てきたボールをSH飯沼蓮キャプテンが持ち出し、WTB石井魁、そして今季初先発のCTBシェーン・ゲイツへ。左隅を快走し、青空の下で東京・駒沢が沸いた。
だが、ダービーマッチは容易ではなかった。
RH大阪が前半23分にショット成功で3点追加。これで5点ビハインド(5-10)。さらに4分後にFL花田広樹に2トライ目を奪われる。点差が10点(5-15)に広がった。
チームに焦りがでていた。フラストレーションが溜まっていく。前半31分にはプレシーズンから手応えのあったモールを、RH大阪に止められてしまう。
「前半は少し風下で、上手く攻められなかったり、アタックでブレイクダウンやターンオーバーのリアクションスピードが良くなかったりし、自分たちの流れにもっていけませんでした」(SH飯沼キャプテン)
しかしWTB安田卓平のトライで5点差に詰めていた、前半40分だ。
今季初先発のPR坂和樹、HOサミソニ・アサエリのいるスクラムで、相手からペナルティを奪う。と、ここで前半40分経過を知らせるホーンが鳴り響いた。エリアは敵陣中央だ。
確実に得点したい場面。ペナルティゴールで3点を加えることもできるだろう。いや、タッチに出し、ラインアウトモールで勝負をするか――。
SH飯沼キャプテンは、スローワーを務める日本大学出身のサミソニ・アサエリに確認をとった。ラインアウトは現状完璧とはいえない。総合的にみて、判断を下した。
「フッカーのサミソニ・アサエリにも確認しましたが、表情や雰囲気などを見て、スクラムからはトライを確実に取れるだろうと思い、スクラムを選択しました」
41分27秒。
勝負のスクラム選択から、トライを狙ってアタック開始。
折り返しから連続攻撃。FLムーアがみずからボールを拍手で呼び込む。そして闘志満点の突進。バチンという衝撃音が響き、会場がどよめく。
そしてフィニッシュは元レッドハリケーンズのLOヴィンピー・ファンデルヴァルトだった。トライラインの先へ、巨体をねじ込ませ、歓喜の同点トライ。
さらにFB田村熙の勝ち越しコンバージョンは成功。狙い通りのトライ&ゴールで逆転し、17-15で試合を折り返した。
後半は強力スクラム、そしてラインアウトの守備が冴えた。特に指揮官が讃えたのがスクラムだった。
「後半はセットピース(スクラム、ラインアウト)の部分、特にスクラムで圧倒することによって、ブレイクダウンやコンタクトエリアで激しくプレーすることができました」(ヨハン・アッカーマンHC)
後半のスクラムはより堅固な一枚岩だった。
途中出場のPR柳川正秀、PR竹内柊平が投入された54分のスクラム。相手FWはシンビンで1人少なかったが、確実にペナルティを奪った。
コンセプトキャンプのトレーニングスコッドに招集されたばかりのPR竹内は、投入の2分後、得意のピック&ゴーで後半最初のトライ。均衡を崩してみせた。
さらに24-15とした浦安DRは、さらにもう一人のコンセプトキャンプ招集者、CTBサミソニ・トゥアが光った。
後半20分だ。開始6分の怪我人対応でスクランブル出場したブロディ・マカスケルがジャッカル。すぐさま展開すると、CTBサミソニ・トゥアが相手防御を切り裂いてロングキャリー。
WTB石井が流石のスプリントで相手を振り切り、相手シンビンの間に2連続トライを決めた。
終盤は途中出場リサラシオシファの初トライ、WTB安田のこの日2本目も生まれた。充実の最終スコアは30点差(45-15)。後半は28得点完封という猛攻だった。
それでも前半の均衡をみれば、完璧ではなかった。
しかし後半はブレイクダウンやセットプレーなどを修正。試合中に問題発見、課題解決まで漕ぎ着ける修正能力があった。
「完璧な試合展開ではなかったですが、落ち着いて対処しました。勝ち切ったという点には満足しています」(アッカーマンHC)
ダービーマッチらしく激闘をくりひろげた浦安DRとRH大阪。
試合後には、チームスタッフが慌てる予想外の出来事があった。
両軍の選手たちが、なかなか試合後の取材ゾーンに現れない。
何があったのか。浦安DRのスタッフが慌てた様子でやってきた。取材陣にむかって申し訳なさそうにアナウンスした。
「申し訳ありません。両チームの友達同士、旧友同士で懇談が始まってしまっていまして・・・」
試合後に旧交を温めていた。楕円球を通じた交感の伝統は、今もこの場所で継承されている。
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[i] PR坂和樹/HOサミソニ・アサエリ/PR金廉/FLジェームス・ムーア/CTBシェーン・ゲイツ