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2022-23順位決定戦第1節
「混沌を乗り越えて」
◇NTTジャパンラグビーリーグワン2022-23ディビジョン2 順位決定戦第1節
◇浦安DR 31-12 S愛知(2023年4月9日@江東区夢の島競技場)
強い春風が吹きつける東京・夢の島競技場。その眩しい緑のピッチで、浦安D-Rocks(浦安DR)の15人が堅固な円陣を組んでいる。腕を絞り、身を寄せ合い、リーダーの言葉に耳を傾けている。
試合時間は前半2分だ。チーム史上最速、開始2分間で2連続トライを奪った直後。しかしその固すぎる円陣から、余裕は感じられない。むしろ警戒感を発している。
呆気ないトライは、時に窮地を招くことがある――。
SH(スクラムハーフ)飯沼蓮主将は注意を促していた。
「良い形で2トライ(前半1、2分)できました。しかし良い形になりすぎて気が抜けてしまう経験が過去にあったので、そこはチームに伝えました」(SH飯沼主将)
気を緩めてはならない。全員で同じ絵を見よう。この日リーグ通算50キャップ達成のCTB(センター)シェーン・ゲイツも熱心に語りかけていた。今日は、絶対に、負けられない――。
ディビジョン2(D2)上位3チームによる順位決定戦の火蓋が、ついに切られた。
浦安DRが挑む順位決定戦は、"三つ巴による優勝決定戦"だ。
10戦全勝(中止1試合)したリーグ戦の結果はリセット。最終順位は、1チーム2試合の順位決定戦で決着する。
すなわち4月9日(日)の豊田自動織機シャトルズ愛知戦(S愛知)/リーグ戦3位)、そして4月22日(土)の三重ホンダヒート戦(三重H/リーグ戦2位)との2戦目。
この結果で、1位か、2位か、3位かの明暗が分かれる。
この日、S愛知との重大決戦の試合前には、ファン投票により決定したチーム公式マスコット『ロッディ&ドリィ』がお披露目。メンバー23人では、昨年12月以来約3か月半ぶりにジェームス・ムーアがリザーブ入りした。
悪い予感は、的中してしまった。
序盤に14-0とリードしながら、反則から窮地に陥ったのだ。
浦安DRは前半6分からの5分間で4回の反則。その後のスクラムでも4回の反則。約15分間にわたり自陣に釘付けにされた。
「シャトルズさんと僕たちのスクラムがあまり合わず、ペナルティを取るか、取られるか、というスクラムになってしまいました」(PR竹内柊平)
スコアは14-0だったが、スクラムという時空間では一進一退。浦安DRも2回連続でスクラムの反則を奪って自陣脱出。修正したスクラムで前半29分のチーム3トライ目(21-0)を演出したが、ディシプリン(規律)の課題は残った。
浦安DRはその後、反則の繰り返し、スクラムでの反則により2枚のイエローカード(前半38、42分)。前半終了前にはトライも奪われた。21-7で迎えた後半開始からの7分間は、13人で戦うことになった。
後半開始から、シンビンを受けた竹内柊平はピッチサイド中央の椅子に座っていた。
13人で戦う仲間をただ懸命に見つめた。
「自分のペナルティでチームに苦しい思いをさせてしまいショックでした」(PR竹内)。
窮地にこそ大声で鼓舞し、背中で引っ張ってきた。今すぐ加勢したかったが、座っているしかなかった。
ところが窮地にこそ、真価を発揮した。
この日プレイヤー・オブ・ザ・マッチのFB(フルバック)安田卓平が電撃的なカウンター。カミソリのような切れ味のランで敵陣に入り、一気の大外展開でチーム4本目。13人でトライを獲ってしまった。
「(13人でのトライは)やってきたことを信じて自分たちのアタックを遂行した結果だと思います。チームの可能性を大いに感じ、あらためて自信になりました」(PR竹内)
13人の間、S愛知に2トライ目を奪われたものの(28-12)、その後の失点はゼロ。後半9分にはCTBゲイツが得意のタックルからジャッカル成功。一人二役の働きで、自身のメモリアルマッチに貢献した。
そして前半苦戦したスクラム。
後半出場した平均年齢24.3歳のフロントローを筆頭に修正した。HO藤村琉士(24)、PR西川和眞(27)、PR鍋島秀源(22)の3人だ。
「スクラムは後半メンバーが修正して、押して、相手にプレッシャーを掛け、かなり良いモメンタム(勢い)を生んでくれました」(PR竹内)
この日最後の得点はスクラムから奪ったペナルティだ。後半26分にPG(ペナルティゴール)成功。司令塔のクリップス ヘイデンは強風の中、プレースキック5本を全成功。31-12の勝利に貢献した。
試合後。指揮官のヨハン・アッカーマンHC(ヘッドコーチ)は「満足のいくパフォーマンスではなかった。この先ディビジョン1で戦っていくのであれば不十分」と厳しい表情。
SH飯沼主将も「前々から課題だったペナルティのところが大きく出てしまった」と反省。制圧できなかったゲーム展開を「カオス(混沌)」と表現した。
それでも、混沌を乗り越え、勝ち鬨をあげた。
浦安DRは9回の反則で劣勢だった序盤の15分間、7度にわたりアタックを阻止。トライラインを死守している。煌びやかな才能が注目されるが、浦安DRにはカオスに耐えられる強靱な根があった。
ファイトする姿勢を見せてくれた――。アッカーマンHCは選手の献身をそう評価した。
「13人になってもトライを獲り、ディフェンスでもトライラインを守る姿勢を見せてくれました。プレッシャー下でのプレーは満足しています。今日の経験は今後役立つでしょう」
その重要な「今後」は、順位決定戦の最終戦だ。
4月22日の東京・駒沢で、三重Hと相まみえる。ここで凱歌をあげればD2優勝。入替戦の相手は、D1の最下位(12位)チームに確定する。
2022年8月25日のチーム始動から、まもなく8か月。敗北を知らぬままシーズンは佳境を迎える。
一枚岩で、新たな歴史を創造する。チームの歴史的瞬間へのカウントダウンは始まっている。