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2022-23第4節「試練の果てに」
◆NTT ジャパンラグビー リーグワン2022-23ディビジョン2 第4節
◆浦安DR41-26日野RD(2023年1月21日@東京・AGFフィールド)
自分は何者なのか。どんな目的のためにここにいるのか。
スクラムを最前列で組むフロントローの3人(FW第1列)は、8対8の押し合い――「スクラム」という他に類をみない勝負に、みずからの存在意義を懸けている。
まして3人全員がチーム初先発となれば、なおさらだ。
必ず押す。背番号1は、早稲田大学の元キャプテンであるPR(プロップ)上田竜太郎、背番号2は日本大学で同じくキャプテンだったHO(フッカー)藤村琉士。そして背番号3は帝京大学出身のPR金廉。
相手は日野レッドドルフィンズ(日野RD)。リザーブに入ったリーグ最年長44歳のPR久富雄一をはじめ、相手には経験豊富な猛者も多い。が、やるべきことはシンプルだ。「準備してきたことを出すだけでした」(PR上田)。
20点リードの前半38分、会心のスクラムで、強者(きょうしゃ)のとしての実力を証明した。
AGFフィールドのバック側で迎えた、相手ボールのスクラム。「セット!」のコールで、8人一体の塊が激突しあう。相手がひるんだ、その一瞬に飛び込むようにして間合いを詰める。押し込む。寒風吹きすさぶ冬空に、レフリーの笛が響き渡った。優勢だったスクラムでペナルティを奪った。
自分は何者なのか。どんな目的のためにここにいるのか。仰向けに倒した相手のかたわらで、上田竜太郎が雄叫びを上げた。
「シンプルにいかに準備してきたものを出せるかにフォーカスしました。(スクラムは)全体的に良かったと思います」(PR上田)
「日頃の練習からスクラムにプライドを持って練習しています。今日はスクラムではある程度結果が出ました」(PR金廉)
時計の針を試合前に戻したい。開幕3連勝で首位に立っていた浦安D-Rocks(浦安DR)はこの日、4位(1勝2敗)の日野RDとのビジターゲームで、前節から先発12人[i]を替えていた。
連続出場する3人は、ゲームキャプテンのFL(フランカー)中島進護、CTB(センター)シェーン・ゲイツ、FB(フルバック)安田卓平のみ。
ヨハン・アッカーマンHC(ヘッドコーチ)は「練習で良いパフォーマンスを見せている選手にアピールの機会を与えたい」と考え、先発に大幅な変更を加えていた。
ただそのアピールの機会が、これほど過酷なストレス・テストになると誰が予想しただろう。
まず試合前にイズラエル・フォラウが怪我で欠場。さらには、試合直前のウォーミングアップで、日野RDとの古巣対決になるはずだったクリップスヘイデンも怪我をした。
まさかの事態。アッカーマンHCは試合目前でのメンバー変更を強いられた。司令塔を誰にするのか。先発FBの安田はスタンドオフ経験もあるが――。
「スクラムハーフとスタンドオフをカバーできるグレイグ(・レイドロー)が出場できることになりました。おかげで我々のプレーは崩れることがなかった。助かりました」(アッカーマンHC)
スコットランド代表のスタンドオフとして国際試合も経験している37歳が、メンバー外から緊急出場。
そしてゲームメイクで力を発揮した。風上に立った前半、浦安DRは20得点(3トライ、1ペナルティゴール)を挙げたのだ。
まず10番レイドローのペナルティゴールで3点先制。8人中7人が替わった先発FWもラインアウトモールで前半10分にトライ。FWの分厚い選手層を証明してみせた。
さらに優勢のスクラムから、先発機会を与えられた猛タックラーのSH(スクラムハーフ)ティアン・メイヤーが2本目。運動量豊富なCTBゲイツのインターセプトで3本目を奪った。
不測の事態に対しても、チャンスを与えられたメンバーを中心に前半を乗り切った。
が、本当の試練はここからだった。
後半風下に立った浦安DR。2連続のジャッカルを受けて自陣ゴール前に後退すると、後半5分、WTB(ウイング)リサラシオシファが相手モールを崩して2枚目のイエロー。累積で、痛恨の退場。
浦安DRは、ビジターゲームで、残りの35分間を14人で戦うことになった。
ここで日野RDのペナルティトライが認められて7失点。さらに直後の後半6分、不在になった14番の守備エリアを攻略されて連続失点。20点あったリードは一挙に6点(14-20)に縮まった。
巡ってきたアピールの機会だ。ここで瓦解するわけにはいかない。チームは緊急時の戦い方を共有した。
ディフェンスラインは少ない状況。ラックに人数を掛けすぎると、相手に数的優位が生まれやすくなる。適切な人数でファイトする。そして1人が2人分の仕事をしよう――。
「チームとして何をやるかに立ち返りました。ラックでプレッシャーを掛けすぎない、1人が2人分の仕事をするといったことにフォーカスしました。きつい展開でしたが、14人でも戦えることが証明できました」(FL中島ゲームキャプテン)
しかし試練の厳しさは増した。FLリアム。・ギルが危険なタックルでシンビン。後半9分から10分間は13人になった。
それでも背中で引っ張る闘将、FL中島ゲームキャプテンが有言実行のジャッカル。攻撃中のアドバンテージを活かした10番レイドローのショートキックから、13人でトライ(後半14分)まで奪った。さらに初出場のWTB石井の絶妙キャッチ、途中出場の竹内柊平、FLギルのトライもあった。
結果を振り返れば、後半だけのスコアは21-26と拮抗。不利な状況において接戦を演じた。
圧巻はラストプレーだ。試合時間は80分を超えてホーンが鳴った。ボールを外に出してしまえば、厳しかった試練がようやく終わる。41-26で開幕4連勝――ところがボールを保持した浦安DR。
SOレイドローがゲームを再開し、全員で攻め始めた。
「絶対に(トライを)取りにいこうと。諦めないところを見せたかった」(FL中島ゲームキャプテン)
結果的にトライは奪えなかった。それでも理屈を超えたメッセージ、激闘の余韻をピッチに残した。
試練に打ち克って勝利に辿り着いた選手たち。試合を見届けたアッカーマンHCは「特別な勝利」だと感じた。
「今日は数々の試練がありました。ウォームアップでの(クリップスの)怪我、試合中の試練、レッドカードも含めて試練でした」(アッカーマンHC)
先発機会を与えられたメンバーも試練を乗り越え、ノーサイドの瞬間まで、強者として振る舞った。3週間後の2月11日(土)、釜石シーウェイブスとのホストゲームへ向けて、アピールした。
「2022年に新しく浦安D-Rocksになって選手層が厚くなり、今は誰が出てもおかしくない、という状況で準備しています。今日は全員が良いパフォーマンスができると証明できました」(FL中島ゲームキャプテン)
試練に強者として立ち向かい、全員で乗り越えた。また絆は固くなった。
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[i] PR上田竜太郎/HO藤村琉士/PR金廉/LOヴィンピー・ファンデルヴァルト/LO金嶺志/FLリアム・ギル/NO8タイラー・ポール/SHティアン・メイヤー/SOグレイグ・レイドロー/WTB石井魁/CTBトゥクフカトネ/WTBリサラシオシファ