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2022-233節「常識を超えて」

 

NTT ジャパンラグビー リーグワン2022-23ディビジョン23節 

◆浦安DR 55-16 S愛知(2023114日@東京・駒沢オリンピック公園陸上競技場)

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駒沢の雨空に向かって、キャプテンの飯沼蓮が飛んだ。

通常、ラインアウトのジャンパーは巨躯のフォワードが担当する。しかし開始早々、得点機のラインアウトでリフトされたのは、配球役であるスクラムハーフの飯沼キャプテン。前半3分の先制トライは、この常識外の一手が端緒になった。

雨の全勝対決だった。

2023年の初陣を迎えた浦安DRは、開幕2連勝でディビジョン2の首位に立っていた。首都圏初のホストゲームに迎えた相手は、同じく2連勝で2位の豊田自動織機シャトルズ愛知(S愛知)。お互いに今季のディビジョン1昇格、将来的なリーグ優勝を公言する者同士。

1位×2位の、首位攻防戦だ。

いざ選手入場。東京五輪1964のレガシーを継承するスタジアムに爆音が響く。巨大な白煙が噴き上がる。初登場のD-Rocks CheerleadersDRC)の6人がフラッグを振る中、白煙のトンネルから先発15人が雨中のピッチに登場した。前節から先発が6[i]変わっていた。

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ピッチには細かい雨が降っている。三重での開幕戦と似たコンディションだが、雨中戦の戦い方はしない。「自分たち」は変えない。「選手のスキルを信じて自分たちの戦略通りに展開しました」(ヨハン・アッカーマンHC)。準備したプレーで、勝負する。

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それから浦安DRは、意表を突く攻撃を繰り出した。

常識外のプレーから前半3分に先制トライを挙げたが、その後は苦境に立った。自陣脱出に失敗し、スクラムでは相手の3番プロップを前に出す「特徴的な組み方」(フッカー金正奎)に対処しきれず、PG(ペナルティゴール)で前半11分に3失点。

それでも岩盤は砕けなかった。フランカー繁松哲大は倍速のスピード感でタックルの雨を降らし、金正奎も十八番のジャッカル。相手の10次攻撃を防ぎ、敵陣でふたたび金正奎のタックルから前半15分、攻撃権を奪い返し、ようやく攻防が一段落した――。

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と、その直後だった。

相手9番からボールを受け取った飯沼キャプテン。大きく空いているオープンサイドに顔を振る。意思疎通を確認した。行ける。苦しい場面でメンバー最年少の22歳は、ペナルティから速攻を仕掛けた。

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「タフな練習をしてきているので、80分間動けるという自信がありました。相手が気を抜いた瞬間に流れを変えるプレーがしたい、みんなもそういうマインドがありました。外からも(クイックリスタートの)声があったので、いきました」(飯沼キャプテン)

タフネスを誇る浦安DR「らしさ」が出た速攻攻撃。このリスタートから、センターのサミソニ・トゥアがド真ん中を突破。前半17分のPG加点に繋げてみせた。

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浦安DRの意表の突く攻撃は、さらに続いた。

守備の大黒柱の一人、ジミー・トゥポウの幻のトライ(前半20)は、ゴール前のタップキックで始まる特殊プレーからだった。常識的には、ラインアウトやスクラム、PGを選択する場面だったろう。

2連続トライ(前半2537)11点リード(209)を奪っていたハーフタイム直前にも、果敢に意表を突いた。

展開、展開、展開からのピック&ゴー。突然にラックの脇をロックのローレンス・エラスマスが急襲。準備していたオテレ・ブラック、飯沼キャプテンがフォローに走る。狙いは的中。インゴールを奪い、前半を4本目のトライで締めた。

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後半は「14人は不利」という常識に、14人で挑んだ。

修正したスクラムから一次攻撃でトライを奪い、25点リードとしていた後半15分。日本代表キャップを持つシェーン・ゲイツが10分間の一次退場。負けられぬ試合で14人になってしまった。

もともと常識外から生まれたチームだ。2チームから選手が集って1チームになり、2022年に産声を上げた。プライドの破片を持ち寄り、丁寧に合わせていく、チームの誰もが経験したことない作業。誰も経験したことのない感情。

 

人跡未踏の地を歩む、手探りの日々。

そんな困難を共にしてきた仲間、ピッチ場の14人に飯沼キャプテンが言った。「1人が2人分の仕事をしよう」。その言葉に、仲間たちは応えた。

途中出場のフロントロー3人(藤村琉士、柳川正秀、金廉)。後半15分の自陣ゴール前の土壇場、相手ボールのスクラムでギリギリと押し込んだ。相手がボールを展開する。パスミスを誘った。背水の窮地をしのぎ、冷静な司令塔のオテレ・ブラックが歓喜した。

ロックの小島佑太。ラックで絡みついて会心のジャッカルをみせた。その後こぼれ球に飛び込み、攻守交代をもたらした。

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ウイングのラリー・スルンガ。S愛知に見事なトライ(後半21分)を奪われた直後、元チームメイトのナエアタ・ルイをタッチに押し出す好守備。ここで獲得したラインアウトモールからフッカー藤村のトライが生まれた。

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後半25分にはクリップスヘイデンの足技、繁松のランから華麗な連続トライ。浦安DRは、14人で、逆にリードを広げてみせたのだ。

「後半1人減った状況になりましたが『一人ひとりが2人分動けばいい』と言いました。1トライは許しましたが、それほど流れは渡さずに修正できたことは良かったと思います」(飯沼キャプテン)

フィニッシュの8本目は、この日力強く推進したラインアウトモールが起点。結果は55得点の大勝。3連勝で首位をキープし、翌週土曜日(121)のビジターゲーム(日野レッドドルフィンズ戦)へ向け、弾みをつけた。

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試合中は立って戦況を見つめていたアッカーマンHC。指揮官としての誇りを感じていた。

「選手たちを誇りに思います。最初からチャンスを多く作り、いくつかトライに繋げることができました。その後のキックオフで油断して失点しましたが、後半に重要なトライを生み出すことで点差をつけ、優位に運ぶことができました。終盤に乱れた規律は修正が必要ですが、基本的に内容には満足しています」(アッカーマンHC)

浦安D-Rocksという比類のない物語がこれからどんな軌跡を描くのかは誰も分からない。誰も見たことのない、誰も知らない世界へ。常識を超える意志をもって、挑み続ける。

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[i] HO金正奎/LO小島佑太/LOローレンス・エラスマス/FL中島進護/FL繁松哲大/SOオテレ ・ブラック