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2022-23開幕節「揺るがなかった自信」
◇NTT ジャパンラグビー リーグワン2022-23ディビジョン2第1節
◇浦安DR 35-27 三重H(2022年12月17日@三重・鈴鹿)
三重県沿岸を南北に走る近鉄名古屋線。名古屋方面から数えて31番目の白子(しろこ)駅で降り、バスに乗り換え、北端は雪化粧をした鈴鹿山脈へ向かって走ること約20分。そこに各種スポーツ施設が集まる広大な「スポーツの杜 鈴鹿」がある。
そこは浦安D-Rocksの開幕戦にふさわしい、逆境の舞台だった。
メンバー23人は白のセカンドジャージーに身を包み、三重交通グラウンドのピッチに入場した。温暖な春のホストゲームではない。むしろその逆、底冷えのする12月のビジターゲームだ。心配された大雨はない。しかし分厚い雨雲からはパラパラと雨粒が落ちてくる。
ホストの三重ホンダヒートが、華々しく入場してきた。
刺すような冷気の中、ピッチから観客席を見渡した。浦安DRのユニフォームを着てくれている人たちがいる。しかし多くは三重ホンダヒートの応援カラーである「赤」だ。バックスタンドも。ゴール裏も。さらにはスタジアムを取り囲む山並みまで紅(あか)く色付いている。
「浦安D-Rocksとしての初戦。苦しいゲームになることは分かっていました」(飯沼蓮主将)
始まった80分間は、試練に次ぐ試練だった。
最初の敵陣アタックでFB(フルバック)イズラエル・フォラウが先制トライ。チーム公式戦最初のスコアラーとなり、前半8分にはペナルティゴール(PG)成功。開始8分で10点を奪う「素晴らしい序盤」(ヨハン・アッカーマン ヘッドコーチ)だった。
それから20分後。
浦安DRは逆襲を受け、7点を追いかけていた。スコアボードは前半20分で10-17だ。コーチボックスにいた指揮官、アッカーマンHC(ヘッドコーチ)は「ラインアウトとブレイクダウンで苦しみ、そこで流れを失った」と感じた。
ピッチでは、浦安DRが円陣を組んでいた。
その環の中で、トライセーブのインターセプト(前半17分)もあった22歳の飯沼主将は、落ち着いていた。チームの精神状態を観察した。マズいという直感はなかった。
そこにあったのは、2022年8月25日、リーグワン初の新チームとして練習を始め、持久力を測るブロンコテストから開始した4か月で、猛練習とチームビルディング、2度の強化合宿を経て共に培ってきた絆、信頼関係だった。
この逆境で、自信は揺らいでいなかった。SH(スクラムハーフ)飯沼主将はまるで当然のことのように、負ける気がしないと思った。
「プレシーズンからどのチームよりもしんどい練習をしてきて、アティテュード(態度)など細かい部分にもこだわってきました。プライドが芽生え、いま一人ひとりが責任あるプレーができます。ピンチになっても立ち返れる部分があったので、タフな試合でしたが、負ける気はしませんでした」(SH飯沼主将)
敵の居城で、ともすると15人ぼっちのように見えた白ジャージーの集団は、終始頑丈な一枚岩だった。今季フランカーからフッカーに転向した金正奎も、同様の確信を抱きながらフィールドを駆けていた。
「タフな試合ではありましたが、負けるとは思っていませんでした。負けると思っていないのは当然なんですが――、どう言えばいいか、最後まで粘り強く戦い抜ける、という自信がありました」
同点(24-24)で迎えた後半40分間。
言葉通り、浦安DRは粘り強く戦い続けた。
LO(ロック)ローレンス・エラスマスのタックルは、ヘビー級の巨大なストレートパンチだった。スクラムでは、飯沼主将の前半トライをアシストしたPR(プロップ)竹内柊平、ルーキーPR柳川正秀が、初のスクラムペナルティ奪取(後半2分)で野獣のように吠えた。
「相手のスクラムはどのチーム相手にも押していましたが、しっかり対策をして、スクラムは自分たちの形で組むことができました。ボールはキープできましたし、ペナルティも獲れました」(HO金正奎)
前半はFW一丸のモールトライ(前半31分)もあったが、勝ち越しトライは美技から突然に生まれた。後半9分にSO(スタンドオフ)オテレ・ブラックが右隅へキックパス。緩やかな放物線をトンガ出身の24歳、ラリー・スルンガを捕球し、華やかに勝ち越した。
揺るがぬ自信は、ラスト20分間のハードワークに最も表れた。
フル出場のLO小島佑太、両FL(フランカー)のヴィンピー・ファンデルヴァルト、繁松哲大が、地面近くで馬車馬のように働いていた。途中出場のシェーン・ゲイツは守備で攻守交代に幾度も貢献した。
会心の試合運びではなかった。しかし浦安DRというチームは、会心の試合運びをしなければ勝てない集団ではなかった。後半21、34分にPG加点で突き放す。苦しみながらも勝ち切る集団、強い人間たちがそこにいた。
「(勝利の理由は)鍵となる場面でチャンスを活かせたこと。良いトライもありましたし、アタックの可能性を感じました。ただ、チャンスはたくさん作くれましたが、決めきれないところもありました」(アッカーマンHC)
浦安DRは35-27で公式戦初勝利。ディビジョン2で優勝を狙う三重ホンダヒートを凌駕し、その証として勝ち点4を手中にした。再戦は3月26日、新潟で行われるリーグ最終第10節だ。
試合の最優秀選手(プレイヤー・オブ・ザ・マッチ)に選ばれた飯沼主将は、まだ第一歩に過ぎないという表情だった。
「タフなゲームを全員で楽しみながらできました」(飯沼主将)
浦安D-Rocksの公式戦勝利数はこの日、ゼロからイチになった。チーム自体もゼロからイチに新生した集団だ。HO金正奎には「2つのチームが1つになったというより、まったく新しい1つのチームという感覚」があるという。
半年前は世に存在していなかった。そんなチームが2022年12月17日、2年目のジャパンラグビーリーグワンに第一歩を刻んだ。
試練を味わってきた仲間と、ゼロをイチにした自信を胸に。週末のクリスマス・イヴは、大阪に乗り込む。